【質問まとめ】
10年前に父がなくなったとき、父の不動産について「いらない」と言って相続放棄したはずの姉が「不動産を売って法定相続分の金をよこせ」と言ってきました。
私は、土地建物を時効取得したと主張できるでしょうか?
【質問詳細】
父が死んで10年たつので、父名義の土地、建物の名義を私名義に変えようと思って、 姉にいうと、「家を売って法定相続分の金をよこせ」というのです。
父が死んだ後、父の貯金を姉と私2人で200万円づつ分けました。
それで、その時、姉は「他の財産の家や土地はいっさいいらない」といいました。
土地、建物の取得時効は10年だとおもいますが、姉は父が死亡する30年ぐらい前に結婚して遠方にすんでおり、父死亡後は私1人で、土地、建物を占有していました。
この場合、土地、建物の取得時効を主張して時効取得時効による登記ができるでしょうか?
裁判の場合、姉を相手におこすのでしょうか?
善意は、他に相続人がいない場合ということだと思うのですが、姉は土地、建物の相続を放棄していましたので、私は、他に相続人がいない場合だと思っていました。
相続人は私と姉2人です、
【相続放棄ではなく、遺産分割協議の話である】
相続放棄とは、家庭裁判所に対して、お父さんの遺産は全て相続しませんという申し出をすることです。
お姉さんが《家や土地は一切いらないとあなたに言った》ということは相続放棄ではありません。
法定相続はすることを前提として、どのように遺産分割をするのかということであり、それは遺産分割協議の話であるとご理解ください。
【他の財産はいらないという発言の意味】
遺産分割する場合、通常、法定相続人間で《遺産分割協議書》という合意書を作成し、実印を押捺し、印鑑証明書を添付します。
遺産は多額の財産の分割ですので、分割に同意するという意思に間違いがないこと、分割内容も記載したとおりであるということ等、間違いや誤解を防ぐという配慮から書面化されるのです。
口頭(会話)等だけで遺産分割協議が絶対に成立しないというわけではありませんが、遺産分割という重大な問題を口頭だけで処理するということが裁判で認められることは極めて可能性が低いということを理解する必要があります。
裁判になると、遺産がいらないという発言があったことについてはあなたの方が証明する必要がありますが言った、言わないの議論になりかねません。
また、仮にそのような発言があったと認められても《そのような気持ちもあったというだけで、絶対にいらないと言ったわけではない》と反論されることも多く、裁判になれば必ずしも有利な判決が出るとは言えないでしょう。
【取得時効の成立について】
土地や建物については、占有が長期間続くと時効取得が認められます。
しかし、相続の場合に取得時効が認められることはむずかしいです。
その理由は次のとおりです。
時効取得が成立するには多くの要件がありますが、その一つに《自主占有》の開始という要件があります。
これは取得時効を主張する人が、その家の全部の所有者であるという外形を整えることです。
質問のようなケースでは、あなたがお父さんの家に住んでいるだけでは不十分です。
《全部が私の家である》ということが外見的にわかるような状況が必要です。
説明をしにくいのですが、遺産分割協議が整い、単独登記をし、かつ単独で占有をし始めたが、実は分割協議は無効であったというようなケースがこれにあたります。
そこまで行かなくても、少なくともあなたがお姉さんに《この家、私が全部の所有者になりますよ》ということを宣言する程度の事実が最低限、必要でしょう。
また、本件では、期間の点でも時効の成立は難しいです。
不動産の取得時効は《善意無過失》で10年、それ以外は20年です。
《善意》とはこの家が自分の《単独の所有》と信じ、そう信じたことがもっともだというような場合ですが、本件の場合には、お姉さんに持ち分があるということは明らかですので、善意にはならず、そのため20年も経過していない現時点で取得時効の要件を満たすことはありません。
結局、取得時が成立する可能性はほとんどないと考えていいでしょう。
【どのようにして解決するか】
以上に述べたように、法律的にはあなたの主張がとおることは少ないです。
しかし、法律がすべてではありません。
《お父さんの面倒を見たのは私でしょう》と人情と義理をからめて攻め、
《お姉さんはあのときいらないと言ったのに・・》と足元をすくいつつ、
最後の落としどころとしては少し譲って 《半分づつではなくて4分の1くらいでどうか》とか、あなたの人間力を総動員してお姉さんを説得していくといいでしょう。