【質問の要旨】
・相談者の父の兄弟の死去に伴い、財産を父の兄弟と父の子供で法定相続した
・父の兄弟(80代後半・痴呆症あり)より、故人は生前より父の子供を嫌っていたので相続分を返すよう強要された
・相続分の返却の強要が法的に無効であることを証明したい
・関連法令等を教えてほしい
【回答の要旨】
・被相続人が生前に相続人を嫌っていたという理由で、遺産分割協議を無効とする規定はない
・別の理由を主張された場合は遺産分割協議が取消し又は無効となることもある
・一旦有効に成立した遺産分割協議を無効とすることは難しい
【ご質問内容】
実父(故人)の兄弟A(独身)の死去に伴い、父の兄弟(BとC:2名)と父の子供(D、E、F:3名、内今回の相談者含む)で遺産を2019年9月に法定相続しました。
相続時には税理士が入って遺産分割協議書を作成し、これに則って実施しました(納税も完了しています)。
最近、実父の兄弟Bから「故人は生前から父の子供Dを嫌っていたので相続分を返せ」と強要の電話が入るようになりました。
こちらは法定に則って相続したものを同等の相続人(故人の兄弟B)へ返却する考えは全くありませんが法的に強要が無効であることを証明したいです。
関連法令等をご教示いただけますと助かります。強要している者Bは高齢者(80代後半)で痴ほう症があります。
(wardy)
※敬称略とさせていただきます。
【被相続人が生前に相続人を嫌っていたという理由で、遺産分割協議を無効とする規定はない】
遺産分割協議が有効に成立した場合、単に「故人が生前より父の子供を嫌っていた」という理由では、遺産分割協議は無効となりません。
なぜなら、民法上、被相続人が生前に相続人を嫌っていたという理由で遺産分割協議を無効とできる条文も無ければ、そのように判示した判例も無いからです。
よって、相続人Bの主張は認められることはないでしょう。
そのため、相続人Bにはその旨を伝え、これ以上対応できないこと及び納得がいかないのであれば訴訟提起をするように言うのが良いでしょう。
【別の理由を主張された場合は遺産分割協議が取消し又は無効となることもある】
しかし、相続人Bが別の理由で遺産分割協議の無効を主張してきた場合は、遺産分割協議が取消し又は無効となる可能性もあります。
例えば、実は被相続人の遺言書が存在していたが、相続人Bはその遺言書を知らずに遺産分割協議に応じてしまった場合、相続人Bは遺言書の内容を知っていれば遺産分割協議には応じなかった(錯誤)と訴訟で主張・立証すれば、遺産分割協議が取消し又は無効となる可能性もあります。
もっとも、その場合であっても、それを証明する責任は相続人B側にあるので、相続人Bが裁判所に証拠を提出する必要があります。
【一旦有効に成立した遺産分割協議を無効とすることは難しい】
一般的には、税理士が間に入って遺産分割協議書を作成しているのであれば、税理士が法定相続人の範囲、相続財産などの基本事項の確認や遺産分割協議書に合意するかの意思確認をしているはずです。
また、遺産分割協議書にもおそらく相続人Bの実印が押してあるので、一般的には遺産分割協議が有効に行われたということが強く推認され、遺産分割協議を無効とすることは難しいでしょう。
(弁護士 石尾理恵)