【質問の要旨】
・生命保険金 1,000万円
契約者・被保険者 :父(他界)
保険料支払 :長男
保険金受取人 :長男
・父は保険金受取人を長男から長女に変更した
・保険証券は長男の手元にあるため、長女は保険金の請求ができない状態
・受取人の同意なしの受取人変更は無効と保険会社へ訴えたが、有効とされた
・受取人変更を無効とし、長男が保険金を受け取るようにできないか?
【回答の要旨】
・契約者が受取人の同意なく生命保険金の受取人変更をした場合でも有効
・保険証券がない場合でも長女の保険金請求は可能
・父の遺産分割で寄与分を主張する
・長女の協力があれば父の遺産分割協議で調整を図るという方法もある
【ご質問内容】
父の他界に伴う、生命保険金の受取人についてお尋ねします。
契約者、被保険者:父
保険料支払い:長男
保険金受取人:長男
生命保険金:1000万円
上記内容の生命保険金の受取人が、契約者である父の意向で勝手に長女へ変更されておりました。
しかし、保険料の支払いは長男がしており、また、受取人変更の際も長男の同意なく進められたため、受取人とされた長女もその事実を知らされておらず、長男が打ち明けたためにその事実を把握したものの、保険証券は長男の手元にあり、このままでは長女も保険金の請求ができない状態となっております。
保険会社へ受取人変更の無効を訴えたものの、契約者による受取人変更は同意なしで有効とされ、諦めざるを得ない状況ですが、どうにかして、この変更を無効とし、長男に保険金の支払いを求めたいのですが、ご相談可能でしょうか。
以上、何卒、よろしくお願い申し上げます。
(ダイスケ)
※敬称略とさせていただきます。
【契約者が受取人の同意なく生命保険金の受取人変更をした場合でも有効】
生命保険の契約者は父ですので、長男が保険料を支払っていたとしても、生命保険の受取人変更は父の意思のみで可能です。
そのため、父は受取人であった長男の意思とは関係なく保険金の受取人を長女に変更できます。
もっとも、父が受取人変更手続きをした当時、父が認知症で意思能力に問題があったといえる場合は、長女への受取人の変更が無効となる可能性もあります。
詳しくは、相続Q&A347をご参照ください。
【保険証券がない場合でも長女の保険金請求は可能】
生命保険金の受取人である長女が保険証券を持っていない場合であっても、保険契約が無効になることはありません。
生命保険の受取人が保険証券を失くしてしまったり、誤って破損してしまったりすることはよくあることです。
保険会社に連絡すれば、保険証券の再発行手続きや保険金受取の手続きをすることができます。
【父の遺産分割で寄与分を主張する】
長女が父の生命保険金を受け取る場合であっても、長男は、父が支払うべき保険料を自分が支払うことによって、父の財産を維持又は増加させたのですから、寄与分(金銭等出資型)を主張し、長男が支払った保険料の全額が寄与分として認められるかは必ずしも明らかではありませんが、支払い分の取り戻しができる可能性があります。
なお、本来は父が支払うべき保険料を長男が負担していた、言い換えれば父の支払い分を立替支払いしていたと理解して、長男は父に対して立替保険料の返還請求権という債権を持っており、父が亡くなったことによりその債務が法定相続分に従い長男と長女に相続されたため、長男は長女に保険料の半額を返還請求できると言える余地があるかもしれません。
しかし、その場合は、長女から保険料については、長男から父への贈与であり、返還請求は認められないと反論される可能性もあります。
【長女の協力があれば父の遺産分割協議で調整を図るという方法もある】
原則として、生命保険金は受取人固有の財産であり、父の遺産分割の対象外です。
よって、法的に長男が長女に父の生命保険金を渡す又は分けるように請求することはできません。
しかし、長男が保険料を支払っていたこと及び本来は長男が生命保険金の受取人であったことを長女も知っていたのであれば、長女を説得して、法定相続分に従って遺産を分けるのではなく、長男が相続する父の遺産割合を増やして長女の相続する父の遺産割合を減らすなど遺産分割協議で調整を図るという方法もあり得るでしょう。
(弁護士 石尾理恵)