【質問の要旨】
家族構成:父、母(既に他界)、兄、相談者、妹
父から共有物分割請求の訴訟を起こされている。
原告:父(妹がおそらく父に訴訟をするよう持ち掛けた)
被告:相談者
※双方弁護士が付いている
①父が訴訟中に亡くなった場合は、その訴訟はどうなるのか。
(相続人の中に原告と被告がいる場合、相続人間で訴訟の継続・取下げを決められるのか。弁護士が継続するのか。)
②父が訴訟に関する遺言書を残していた場合(弁護士や妹に訴訟を引き継ぐというような内容等)は、その遺言書の通りに進むのか。
③訴訟が取り下げられた場合、共有物が相続の対象となる。
相談者に相続しないという内容になっていた場合は、その遺言書に従わなければならないのか。
④妹から相続の代償金を支払うよう請求されることもあり得るか。また、その為に競売を求めてくる事もあり得るか。
【質問内容】
・父から共有物分割請求の訴訟を起こされています(競売)
・双方代理人弁護士がいます
・父が訴訟中に死亡した場合は、この訴訟はどうなるのでしょうか
・母は既に亡くなっており、父が死亡すれば相続人は子供(兄、私、妹)の3人です
・相続人が3人(3人の内被告が入っている)場合、3人がその訴訟を続けるかどうかを決めることができるのでしょうか?それとも父の方の代理人弁護士が継続することになるのでしょうか
・私と兄はこの訴訟を取り下げて欲しいと思っています。妹夫婦がこの訴訟を父にけしかけたのではないかと思っています。
・もし遺言があり、父がこの裁判についての意思が遺されていたらその通りになるのでしょうか?(弁護士や妹にこの訴訟の引き継ぎをお願いするような内容など)
・父の死亡後、もし訴訟の取り下げが出来たとしても、今度は共有物が相続の対象となります。遺言で私に相続しないとなっていた場合、遺言の通り従わなければいけないのでしょうか
・次は妹が相続の代償金を支払えと言ってくる事もあり得ますか。その為に競売を求めてくる事もあり得ますか。
【ニックネーム】
tommy
【回答】
1,父が訴訟中に死亡した場合、訴訟は中断するのか?
今回のケースでは、原告が父、被告が相談者となっています。
相談者の兄については、被告となっているかは不明ですので、
被告は相談者のみという前提で回答させていただきます。
父が訴訟中に死亡した場合、
①現在、進行している訴訟は中断するのかという訴訟手続と
②父の共有持分はどうなるかという民法上の権利関係
との2つの問題があります。
2、訴訟手続きについて
訴訟に代理人の弁護士がついていない場合であれば、原告が死亡すれば、手続きは中断(ストップ)します。
相続人が訴訟手続を引き継ぐ(法律用語では「受継」といいます)という申し出をすることによって、訴訟が再開されます。
しかし、今回のケースでは、代理人として弁護士が付いているため、父が亡くなった場合でも、法律上では訴訟手続は中断しません。
ただし、相続人が訴訟手続を受継しなければなりません。
その場合、以下の2つの問題が出てきます。
1)父の共有持分について
遺言がない場合、父の共有持分について、相続人間で法定相続分で共有する状態となり、本件では子らが3分の1の法定相続分を有することになります。
その場合、①の受継の手続を相続人全員が一致ですべきであるのか、個別にしてよいかが問題となります。
相続による不動産共有持分のように相続人の共有に帰するものについては、相続人全員が一致してしなければならないとされています。
各相続人は法定相続分に応じた持分を持っていますが、その後の遺産分割の結果、一人が単独相続をした(例えば、相談者が単独相続した)場合、結局、訴訟を維持する必要がなくなります。
そのため、相続土地に関する権利関係が確定するか、あるいは相続人全員が一致した場合にのみ、受継を認めるのが最も適切でしょう。
なぜなら、遺産分割をした結果、単独で相続した場合でも、その相続人は受継に同意しているのですから、死亡以降の手続が覆えすことは認められないからです。
又、原告代理人としての弁護士の立場から言っても、権利を引き継いだ3人の意見が一致しない限り、誰の意向で動いていいのかわからない状態になり、身動きが取れない状態になります。
結局、訴訟としては実質上、中断することになります。
2)父に遺言があった場合
父に遺言があった場合、例えば、父の共有持分については妹に相続させるという内容の遺言が考えられます。
遺言で決めることができるのは、遺言者が自己の財産を誰に帰属させるかという点についてであり、訴訟上の当事者としての地位の帰属について決められるわけではありません。
ただ、父としては、共有持分を妹に相続させるという内容の遺言を残せば、妹が父の共有持分を取得することになるため、父の原告としての地位も引き継ぐことになります。
その場合、妹が訴訟を取り下げない限り、訴訟は継続するということになります。
3, 共有物分割訴訟の取り下げができた場合
仮に、共有物分割訴訟の取下げができた場合であっても、父の共有持分についての遺産分割の問題は残ります。
父が遺言を残しており、父の共有持分の帰属先が決まっているのであれば、遺言が有効である限り、共有持分についての遺産分割は必要ありません。
遺産分割をしない場合、父の共有持分については、前述のとおり、相続人間で共有状態が続くことになります。
4,相続の代償金、競売について
父が遺言を残しておらず、遺産分割が必要な場合、相続人間の話し合いや遺産分割調停で遺産分割をすることになります。
このとき、例えば、相談者が法定相続分よりも多めに遺産を取得する場合などは、妹から法定相続分を超えて取得する部分の代償金を支払うよう請求されることが考えられます。
代償金を支払う資力が不足していれば、場合によっては、不動産等を競売して代金を分けるという案が提案される可能性はあるでしょう。
(弁護士 山本こずえ)
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