【質問の要旨】
・兄と同居の父が亡くなった
遺産は
預貯金 600万円
不動産 15年前に3000万円で購入(父は共有持分2分の1)
住宅ローン残 900万円(父名義)
死亡保険金 900万円(受取人は兄)
※なお、兄は不動産の共有者(持分2分の1)であり、その住宅ローン残は1,000万円
・兄は、父のローン残900万円と預貯金600万円が相続の対象と言っている
・信託銀行からは家のローンは相続の対象にはならないと言われた
・相続の対象になるのは、不動産の半分と預貯金だけ?
【回答の要旨】
・原則として、住宅ローンも相続の対象となる
・遺産分割協議の際に兄が父の共有持分及び住宅ローンを相続するのが簡便な方法である
・兄が父の住宅ローンを引き継ぐ場合は免責的債務引受が必要
・兄が取得した生命保険金及び生前贈与を特別受益として遺産に持ち戻すことができる可能性がある
【ご質問内容】
兄夫婦と同居していた父が亡くなり、父のローンが900万円残っています。
兄のローン残は1000万円で、名義は父と兄の共同名義です。
建売を15年前に購入し、その際に父からの援助はあったと思われます。
父の預貯金は600万円で、死亡保険は受取人が兄で900万円です。
兄弟は弟がひとりいます。
兄からは父のローン残900万円と預貯金の600万円が遺産相続の対象になると言われています。家と土地の話は出ていません。
信託銀行の方からは、家のローンは、その家に住む人(兄夫婦)が受け継ぐもので、相続の対象にはならないといわれましたが、間違いないでしょうか。
相続の対象になるのは、家と土地の半分、預貯金でしょうか。
家と土地は合わせておおよそ3000万円です。
(ゆういち)
※敬称略とさせていただきます。
【原則として、住宅ローンも相続の対象となる】
父の相続財産としては、預金などのプラスの財産だけではなく借金などのマイナスの財産についても相続の対象となりますので、原則として父のローン債務も相続人に承継されます。
そのため、父の相続財産となるのは、父の共有不動産の共有持ち分を2分の1であるとすると、原則として①~③となります。
①預貯金:600万円
②共有不動産における父の共有持分2分の1:約1500万円
(但し、不動産の価額が購入時と変わらないとして)
③住宅ローン:△(マイナス)900万円
もっとも、住宅ローンには、債務者である父が死亡等した場合に、保険でローンを返済する生命保険に加入していることも多く、その場合には、債務がなくなりますので、ローンは相続人に承継されません。
【遺産分割協議の際に兄が父の共有持分及び住宅ローンを相続するのが簡便な方法である】
父の相続人があなた、兄及び弟の3人だけであるとすると、父の相続が発生した際は、あなた、兄及び弟で遺産分割協議をおこなう必要があります。
その際、②共有不動産の父の共有持分2分の1を三兄弟の共有名義にする(つまり、共有持分を兄:あなた:弟=4:1:1とする)という方法もありますが、一般的には相続で不動産を共有名義にすることは、売却等の意思決定を困難にするため望ましくありません。
そこで、共有不動産に兄が住み続けるのであれば、父の共有持分を相続してもらって、兄一人の単独所有にしてもらうのがよいでしょう。
その場合、兄は②父の共有持分2分の1(約1500万円)と③住宅ローン(-900万円)を相続し、あなたと弟が①預貯金を300万円ずつ取得するとともに、兄からそれぞれ300万円の代償金の支払いを受けるという遺産分割方法が一番簡便と言えます。
【兄が父の住宅ローンを引き継ぐ場合は免責的債務引受が必要】
前項に記載したような、兄が父の債務(住宅ローン)を支払うような遺産分割をしても、それは相続人間だけの話であり、債権者の関係では、兄弟3人がそれぞれ3分の1の債務を支払う必要があります。
それを避けるためには、兄が債権者(父がローンを組んだ金融機関)と協議して、兄がローン全部の債務を引き受け、他の相続人には請求しないという債権者の承諾を得る(免責的債務引受をする)必要があります。
なお、ローンを組んだ際の契約にもよりますが、兄と父がお互いにローンの(連帯)保証人になっていた場合は、兄のローンに対する父の(連帯)保証債務を相続人が引き継ぐことになるため、連帯保証人の地位も併せて外してもらう必要があります。
【兄が取得した生命保険金及び生前贈与を特別受益として遺産に持ち戻すことができる可能性がある】
兄が15年前に建売の不動産を購入する際、父の援助があったと思われるということですが、もし15年前に自宅購入用の資金として兄から多額の資金が渡されていることが証明できれば、遺産分割の際にその額を父の遺産に持ち戻して、あなたの相続する財産を増やすことができる可能性があります。
また、兄が受取人の生命保険金は、原則として兄固有の財産であり、相続財産の中には含まれません。
但し、特段の事情がある場合は特別受益として、遺産に持ち戻すことが認められる場合もあります。
生命保険が特別受益に当たるかについて、詳しくは過去の相続Q&A №642をご参照下さい。
(弁護士 石尾理恵)