【質問の要旨】
・被相続人:夫
・相続人:相談者と、他にもいるかは不明
・夫が保険契約を締結しており、死亡保険金の受取人は夫になっていた。
相談者が夫の生前に、夫の委任状を偽造し、受取人を夫から相談者に変更した。
夫が死亡し、死亡保険金を全額相談者が受け取った。
・罪に問われるか。
【題名】
JA 共済 死亡時受取人変更
【ご質問内容】
子どものいない夫婦でした。
私の主人は、長年、遷延性意識障害(植物状態)でした。
主人名義のJA養老共済に加入していました。(60歳から65歳までお金がもらえ、60歳を迎えず死亡した場合は死亡時にまとまって受け取りタイプ)
JA共済は死亡受け取りは契約者、今回は私の主人にあたります。
しかし、それを途中で私が受け取りを、主人から私に変更しました。
今、考えれば亡くなれば必然的に私に受け取り人に変わりました。
しかし私は人のアドバイスにより、勝手に受け取り人を主人から私に変えてしまいました。
委任状に主人の名前を書いてだしてしまったのです。
今、考えると何ということをしたのかと思います。
私は罪に問われますか?
結局、主人は亡くなり、私の手元にJA共済金は死亡受け取りとして入ってきました。
【ニックネーム】
ごめんなさい
【回答】
1 死亡保険金の受取人は誰か
相談者は、死亡保険金の受取人を亡夫から相談者に変更しなくても、相続によって全部相談者が受け取ることができたとお考えのようです。
しかし、必ずしもそうとは限りません。それを以下で説明します。
⑴ 保険契約の約款に受取人の順位が指定されている場合
保険契約の約款に受取人の順位が指定されている場合は、その順位に従って受取人が決まります。
⑵ 保険契約の約款において受取人の順位が指定されていない場合
保険契約の約款において受取人の順位が指定されていない場合は、以下に従って受取人が決まります。
ア 亡夫の両親が存命である場合、相談者の相続分が2/3、亡夫の両親の相続分が計1/3になります。
この場合、相談者は死亡保険金の2/3のみ相続できることになります。
イ 亡夫の両親が死亡しているが、亡夫の兄弟(兄弟が死亡している場合はその子ども)が存命である場合は、相談者の相続分が3/4、亡夫の兄弟(又はその子)の相続分が計1/4になります。
この場合、相談者は死亡保険金の3/4のみ相続できることになります。
ウ 亡夫の両親が死亡しており、亡夫に兄弟がいなかった場合、あるいは、亡き夫の兄弟(及びその子)が死亡していた場合は、相談者が単独で全てを相続することになります。
したがって、この場合、相談者は死亡保険金の全額を相続できます。
2 罪に問われるか
亡夫の委任状を偽造しJAに提出した行為は、有印私文書偽造罪、及び同行使罪に該当するでしょう。
また、1⑴の場合や1⑵の場合、詐欺罪にも該当すると考えられます。
3 どう対処すべきか
1⑴で相談者が受取人に指定されている場合や、1⑵ウの場合であれば、どの道相談者が死亡保険金全額を受取れたので、ことさら問題にしなくてもいいのではないかと思われます。
しかし、1⑴で相談者以外の者が受取人に指定されている場合や、1⑵アやイの場合、相談者の偽造行為のために、本来受取れた金銭を受取れない相続人がいることになります。
したがって、これらの場合には、他の相続人に事情を説明し、他の相続人が本来受取ることのできた金銭をお返しするのがよいと思われます。
(弁護士 武田和也)