【質問の要旨】
被相続人: 叔母
預貯金の相続人: 相談者
遺産: 預貯金
遺言書: 遺言公正証書(預貯金は相続人に相続させるという内容)
質問: 老人ホームが叔母の通帳を返してくれないが、どうしたらよいか。
【題名】
老人ホームが亡き叔母の通帳を返してくれない
【ご質問内容】
老人ホームに入所していた叔母が亡くなり、公正証書があるので2か月後に通帳をお返ししますとの事だったのですが、2か月半たっても連絡がなく電話をしたら、担当の者が長期休暇に入っているので待ってほしいと。長期休暇を取るのであれば他の人に業務を委任するのが普通じゃないのかなと思いながら… それから何の連絡もなくもうすぐ3か月になります。 通帳をどうして返せないのか?
このまま先延ばしにされるようなら、弁護士の先生にお願いしたほうがいいでしょうか?
【ニックネーム】
Kei
【回答】
1 被相続人の通帳はあまり役に立たない
今回の質問は、施設が被相続人の通帳を返還しないがどうすればよいかというものです。
これについて回答する前に、相続開始後に通帳がどういう役割を果たすかということを説明します。
死亡した場合、相続人が預貯金の解約、払い戻しをする際に、預貯金の通帳は必要ありません。
遺言書又は法定相続人全員の遺産分割協議書があれば預貯金の解約及び払い戻しが可能です。
又、各金融機関所定の手続きに従い、預貯金の解約及び払い戻しをすることも可能です。
もし、相談者が被相続人の預貯金を解約したいというのなら、施設から通帳を返してもらわなくとも、これらの手続で目的を達することができます。
又、入出金の状況を確認するために金融機関の取引履歴などを知りたいというなら、これも相続人なら、通帳なしで照会が可能です。
ただ、被相続人が《どの金融機関を利用していたかを知りたい》というのであれば、その限度で通帳は役立ちます。
2 それでも通帳を返還されないときの3つの対策
公正証書遺言で、相談者が被相続人の遺産を単独相続することになっているのなら、被相続人の通帳も相談者の所有物になりますので、相談者が返還請求することは法的に可能です。
しかし、何回も請求しても施設が返還しないのなら、次のような対応をされるといいでしょう。
1)施設になぜ返還しないのか、その理由を確認する。
施設が返還しないのは、他に相続人がいるので全員の同意を取ってほしいというのかもしれませんし、あるいはあまりないことでしょうが、施設が通帳を悪用したせいかもしれません。
ともかく、なぜ、施設が通帳を返還しないのか、その理由をきっちりと確認してください。
なお、可能ならば、施設とのやり取りはスマホ等で録音されておくといいでしょう。
2)通帳を返還してもらう必要があるのかを検討する
最初に記載したように、相続開始後、被相続人の通帳が必要なケースはあまりありません。
そのため、相続を開始した現在、通帳が果たして必要かどうかを検討する必要があります。
もし、解約及び払い戻しをしたいのなら通帳なしにそれらをすることが可能ですし、被相続人の口座の入出金を確認したいのなら、通帳なしに確認が可能です。
この点は是非、確認されるといいでしょう。
3)どうしても通帳が必要なら弁護士に依頼する
それでも、通帳がぜひとも必要であるというのなら、施設に対する返還請求を弁護士に依頼するしかないでしょう。
なお、この場合、遺産分割を依頼すると弁護士費用が高くつきます。
費用を節約するためには、(もし弁護士がそういう形で受任してくれるのなら)施設に対する通帳の返還請求だけを委任されるといいでしょう。
(弁護士 大澤 龍司)