分割協議・遺産分割・相続税申告完了の半年後に、家裁から遺言書検認の通知が来ました。
遺言書の有効性をチェックしたいので、その方法と留意点を教えてください。
①遺言書有効性チェックの手順
・筆跡等から無効確認の可能性の見当をつけるための費用
・無効確認の法的手続きとその費用・所要期間
・その他留意事項
②遺留分確保の協議は、遺言書有効チェックに先立って進めるべきですか?遺言執行人への対抗はできますか?
遺産は土地・建物(固定資産税評価額約90百万円)と預金数百万円で、相続人は質問者の妻・被成年後見人Aとその妹B(被相続人・亡母と同居、医師)です。
協議に際して被相続人末弟は、Bに土地建物を継がせる遺言書を書いた筈と述べましたが、Bは見つからなかったと否定。
Bは被相続人との長年の同居と孝養を理由に土地建物に取得を主張しましたが、Aは法定相続分確保は後見人責務と反論し、最終的に代償金を払って土地建物をBが取得することで決着しました。
【遺言と遺産分割協議の関係】
遺言があっても、相続人全員の合意で遺言と異なる内容の遺産分割協議をすることができます。
ただ、遺産分割協議の時点に遺言の存在を知らなかった場合には、
① 当然に遺産分割協議が無効になる
② 遺産分割協議は有効であるが、遺言が存在していることを知っていたのなら、そのような内容にしなかったということで、錯誤により無効になる可能性がある
という2つの回答が考えられます(当事務所の弁護士の協議では、②の扱いでいいのではないかという意見です)。
遺産分割協議が有効という前提に立てば、積極的に遺言無効確認訴訟をする必要性はありません。相手方または遺言執行者が、遺産分割協議が錯誤により無効であったとして、遺産分割した財産の返還請求訴訟をしてきた段階で、それに対抗する手段として遺言無効確認訴訟を反訴として提起すればいいと思われます。
【遺言無効訴訟について】
《筆跡鑑定費用》
遺言の無効を認定してもらう訴訟ですが、無効の原因によって訴訟の手間も期間も異なります。
被相続人の筆跡ではないということを無効原因とするのなら、筆跡鑑定が必要となります。
筆跡鑑定費用はケースや鑑定人などによって異なるのですが、これまでの経験では50万円~100万円の間である場合が多かったです。
《法的手続き》
既に遺産分割協議に基づく遺産の分配が終了しているのであれば、まず、執行者から返還請求訴訟が提起され、それに対応する形で遺言無効確認を反訴で提起するということになるものと思われます。
《弁護士費用》
裁判をする場合、裁判所等に支払う印紙や郵便切手などとは別に、弁護士費用が必要です。
弁護士費用は各事務所により算定方法が異なるのですが、当事務所では遺言書を無効にした場合に各相続人が受ける利益(=具体的相続分-遺言が有効であった場合のあなたの相続分)を前提に弁護士費用を算定します。
具体的には、依頼される弁護士とご相談願います。
《期間》
期間としては、ケースにより異なりますが、筆跡が主たる争点だとすると1年半程度を見込めばいいでしょう。
《その他の留意点》
筆跡鑑定ということになると、被相続人(遺言者)の手紙や日記等の比較対象物が必要不可欠ですので、できるだけ多く収集する必要があります。
なお、今回の質問のケースでは、訴訟も考えられますので、法律の専門家である弁護士に早期に相談し、そのアドバイスで進めるのがいいでしょう。
【遺留分の確保】
遺言が有効であった場合には遺留分の行使が考えられます。
そのためには、遺留分減殺の意思表示が必要です。
これは遺言書の内容を確認し、遺留分を侵害した相手方に対して送付する必要があります。
遺言執行者に対抗するため、その執行者にも送付しておくといいでしょう。
なお、「遺留分確保の協議は、遺言書有効チェックに先立って進めるべきですか」という質問がありますが、遺言書が有効であることが確認できない段階では遺留分は侵害されていませんので、遺留分についての協議はするべきではないでしょう。