【質問の要旨】
・親が亡くなり、相続人は子A・B 二人
・Aは分譲マンション一室(家1)の一部を親から生前贈与されている
・家1には親・A・Bが同居、その後Aが家を出て、親の他界後はBが住んでいる
・Aの持ち分割合に応じた家1の入居時から現在までの利用料を、BはAに払わなければならないのか?
・AはBに現在まで利用料の請求をしていなかったことから、Aは家1をBが無償で利用することに同意していたとならないか?
【回答の要旨】
・Aが、B独自の居住の権利を認めていたかどうかが問題になる
・父が死亡した後は無償で使用できないかは両論がある
・質問に記載された事実だけでは、無償使用できるかどうかは結論が出ない
・最終的にはAの持分の買い取りをする必要がある
【ご質問内容】
■状況
親が他界し、相続人として子が二人(仮にA、B)いて、現在遺産分割協議中です。
遺産の中に分譲マンション一室(仮に家1)があります。
家1の購入代金は全額親が支払っており、親がAに登記の一部を贈与することで共有となっていました。Aは、家1の自身の持分が親からの生前贈与であることを認めています。
家1には当初A、Bと親3人で同居していました。Aは数年後家を出て、その後はBと親2人が同居していました。親の他界後はBが単独で住んでいます。
家1はBが相続し、Aの持分をBが買い取ることで合意しています。
親が他界した後、AはBに対し「家1の一部はAの財産であるので、家1を単独で利用しているBは、Aの財産部分の利用料を払うべきだ」と言いました。
Bは、家1の一部がAのものであることを知らず、家1への入居当初からいままで親からもAからも利用料を請求されていませんでした。
■以下、質問になります。
上記のような場合Bは、Aの持ち分割合に応じた家1の入居時から現在までの利用料を、Aに払わなければならないのでしょうか?
Aは購入当初より登記を持っていましたが、現在まで利用料の請求をしていなかったことから、Aは家1をBが無償で利用することに同意していたとならないでしょうか?
ご回答いただければ幸いです。よろしくお願いいたします。
(ねむねむ)
※敬称略とさせていただきます。
【Aが、B独自の居住の権利を認めていたかどうかが問題になる】
質問を家の所有及び居住関係に絞って整理しましょう。
所有関係:家は親と兄Aが共有
居住関係:①当初は親とA、Bが居住⇒②親とBが居住(Aが家を出た)⇒③Bが単独で居住(親が死亡)
上記①の時期には、AはBが同じ家に住んでいたことを知っていて、賃料を請求しなかったのですから、無償で使用することを認めており、その後の②の段階でも使用料を請求していなかったのですから、無償使用を認めていたのであり、今更、その時期の使用料の請求はできないでしょう。
【父が死亡した後は無償で使用できないかは両論がある】
《無償利用ができるという考え方》
父が死亡した後の③の時期の、Bの居住についてはどうでしょうか。
一つの考え方は、Aが、上記の①及び②の時期に、B独自の立場で家を使用することを認めていたというのであれば、AはBに無償で使用する権利(使用借権)を与えたと考えることができます。
この前提に立てば、BがAから認められた使用借権は、父の死亡とは関係なく存続しますので、Bは父の死亡後も無償で家に居住をすることができるという結論になります。
《無償利用できないという考え方》
しかし、Aとしては、父が無償で住む(正確に言えば、Aの持分を使用する)ことは認めたものの、Bに独自の使用借権を与えてはいないという主張をする可能性があります。
Bが家を無償使用できるのは、Bが父の家族の一員として居住を認められていた、いわば付属物(言葉が悪いかもしれませんが)として家を無償使用できたからにすぎない。
換言すれば父の権利がある限りでBは居住を認められるにすぎない。
そのため、父の死亡で父の使用借権は消滅する(民法597条3項:使用借主の死亡で使用貸借は終了する)ので、基礎となった父の権利がなくなった以上、Bが独自に無償でAの持分を使用することはできないという考え方です。
【質問に記載された事実だけでは、無償使用できるかどうかは結論が出ない】
以上述べたように2つの主張が可能ですが、どちらが認められるのかは、質問に記載された事実だけでは考慮する事項が十分に記載されていないので、決定することができません。
ただ、①と②の時期の使用料はおそらく支払いが不要であり、問題となるのは③の父死亡後の時期の使用料だけである。
又、問題となっているのは家全体の使用料ではなく、Aの持分に相当する使用料部分だけである。
という点は間違いのないところでしょう。
【最終的にはAの持分の買い取りをする必要がある】
Bは父の持分を相続したのですが、Aの持分は(当然のことですが)相続対象ではありませんので、家を居住する限りは、Aの持分を使用していることに違いありません。
Bの立場から言えば、まず、生前にAから無償使用する権利を与えられたという主張をするしかありません。
ただ、Bとしては、無償使用できると主張しながら、どこかのタイミングでAの持分を買い取る、その際、ある程度の相続後の使用料分相当額を上乗せするというのも一つの解決方法として考えておかれてもいいでしょう。
(弁護士 大澤龍司)