【質問の要旨】
認知症の父の死亡保険金の受取人は自分のはずだったが、兄が変更手続きをしていた。
この変更は無効になるか?
【ご質問内容】
長年認知症を患っていた父が亡くなり、父から預かっていた保険証券を持って、死亡保険金受け取り手続きに行きました。
その際、窓口の方より、受取人が私でないということを伝えられました。
この保険証券は、生前父が自分から受ったもので、受取人は私の名前になっています。
兄弟に確認したところ、兄が兄弟の断りもなく、受取人変更手続きをしたようです。この変更の、無効請求は可能ですか?
【受取人変更は契約者のみ可能】
保険契約者である父に《無断》で、兄が保険金の受取人を変更した場合、その受取人の変更は無効です。
変更前の受取人が保険を受け取る権利があります。
ただ、本当に無断でしたのか、父の同意がなかったのかという点を明らかにする必要があります。
なお、父に無断で行ったのでなければ、他の兄弟や前の受取人に同意を求める必要はありません。
【問題点は、父に無断で行ったのか、意思能力があったのかという点】
あなたが変更前の受取人である場合、あなたが兄への変更を無効と主張するためには、次の点の少なくともいずれかを明らかにする必要があるでしょう。
① その受取人変更が父に無断であったこと。
② 仮に父の署名・捺印があったとしても、その時点では父は意思能力がなかったこと。
このうち、①については、兄が無断でしたということを認めればいいのですが、もし、否認されるのであれば、保険会社から受取人変更の手続き書類を取り寄せし、筆跡等を確認されるといいでしょう。
ただ、保険会社としては、変更の際に本人の意思確認をするのが原則ですので、父が署名・捺印をしている可能性が高いです。
【認知症にも程度がある・・父に意思能力はあったのか】
保険会社から取り寄せした書類を確認した結果、父の筆跡で署名されていた場合には、前項の②の点が問題になります。
父は認知症を患っていたとのことですが、認知症にも程度があります。
程度が重い場合には、意思能力がない(受取人変更という意味もわからずにしたもの)として、その受取人変更の効力は認められません。
認知症がどの程度のものかは、長谷川式認知スケール等の意思能力を確認するテスト(参考:Q&A №292、Q&A №315、「【コラム】意思能力と長谷川式認知スケールに関する判例の紹介」)をご参照ください。
父が入院等されていたのであれば、是非、カルテを取り寄せしていただき、意思能力に関するテストの結果がないか、確認されるといいでしょう。
カルテに上記テストの記載がない場合には、カルテ等の中の医師や看護師による記載を見て判断することになるでしょう。
【問題を感じるようなら専門家に】
上記のような資料を集めていただき、やはり受取人変更手続きに問題があると感じられるようであれば、一度、相続に詳しいお近くの弁護士にその資料を持ち込み、本格的な法律相談を受けられるべきでしょう。
今のまま放置すると、保険会社が兄に保険金を支払ってしまう可能性もありますので、早急に相談をされるといいでしょう。