【質問の要旨】
・父が亡くなり、相続人は相談者と弟の2人
・相談者家族は父の持ち家で父と16年同居
・父には水道光熱費、固定資産税、子供のおやつ代相当のお金を渡し家賃は渡していなかった
・現在相続協議中で、弟より家賃の1/2の支払いを求められているが、支払い義務はあるか?
【回答の要旨】
・父死亡前は当然に無償で使用できる
・父が死亡した後も無償使用できる
・建物の無償使用の場合は、特別受益もないと考えられる
【ご質問内容】
亡父の相続人は長女の私と長男の弟の2人。
長男が実家を二世帯住宅に建替え、父と同居予定だったのが、地方転勤で建替は無しに。
そこで私家族が父の古家で同居開始し、数年後、長男が地方から戻る際、建替同居を父に求めたが父は断り、16年私が同居し看取りました。
狭い家のため季節衣類は夫のマンションに置く等していて、父は家賃を求めず、光熱水費、固定資産税、子供のおやつ代相当のお金を渡し、食費等はこちら持ちでした。
現在の相続協議中も実家居住中で、弟から家賃1/2相当を求められました。支払義務があるでしょうか。
築50年で床や配管も悪く老朽化が進み、貸家に出来ない家です。
(サクラ)
※敬称略とさせていただきます。
【回答】
【父死亡前は当然に無償で使用できる】
まず、父が亡くなる前の状況について考えます。
父が亡くなる前は、あなたは、家の所有者である父から、無償で家に同居することを認められていたのですから、父があなたに対し、使用借権(無償で使用する権利)を認めていたということになります。
そのため、あなたが父の家に住んでいたことについて、賃料その他使用料が発生することはありません。
【父が死亡した後も無償使用できる】
また、父が死亡した後についても、「共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と当該相続人との間において、相続開始後も、遺産分割により当該建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き当該相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認される」(最高裁平成8年12月17日判決)と判断した判例があります。
この判例で、ポイントとされているのは、
①共同相続人が被相続人の生前に被相続人と同居していたこと
②無償で使用できるのは相続開始後、遺産分割までの期間であること、
の2点です。
つまり、今回のケースのように、父の死亡前から父の家で父と同居していたあなたは、遺産分割により父の家を相続する者が決まるまでは、無償で父の家に住み続けられるということになり、弟からの賃料請求にこたえる必要はありません。
【建物の無償使用の場合は、特別受益もないと考えられる】
上記の通り、賃料請求にこたえる必要はありませんが、それとは別に、建物を無償で使用することが特別受益に当たるかという問題もあります。
もし特別受益にあたるとなれば、遺産分割時に、すでにその分は利益を受けているとして、あなたの相続分が少なくなることになります。
ただ、この点についても、建物を無償使用していたとしても特別受益は成立しないと考えられています。
仮に無償使用していたのが土地であれば(例えば土地の上に建物を建てて、土地代を支払っていなかった場合)は、使用借権相当額(土地の1割~3割)について特別受益が認められるのですが、建物についてはこれを認めないことが多いです。
この理由としては、建物の使用借権には経済的価値はないに等しいと考えられていること、同居していた相続人が独立して占有していたわけではないということ、などが理由とされています。
以上の通り、父の死亡前から父の家で同居していたケースでは、遺産分割により建物の所有者が決まるまでの間は、賃料も発生しませんし、遺産分割時に特別受益として考慮する必要もないということになります。
(弁護士 岡井理紗)