![]()
【質問の要旨】
・長谷川式認知スケールによる父の認知症の経過
平成24年1月17日 12点
平成27年11月 11点
令和元年8月26日 6点
・平成30年6月27日に兄は認知症の父より畑を贈与された。
その登記手続きの時、兄は司法書士の質問に対し父に返事のみさせ、
それ以外の処理は兄が行った。
・畑の贈与は6点と認知症が診断される1年2か月前。
・裁判で贈与は無効となるか?

【回答の要旨】
・契約をするには意思能力が必要
・父から兄への贈与契約は無効となる可能性がある
・贈与が有効とされた場合でも遺産分割の際に特別受益として持ち戻すことができる

![]()
【ご質問内容】
父の認知症
平成24年1月17 長谷川式認知スケール 12点
平成27年11月 長谷川式認知スケール 11点
デイサービスで受けているので信用は? です。
令和元年8月26日 長谷川式認知スケール 6点
兄が認知症の父の畑を1人で
平成30年6月27日に 贈与を受けている。
兄は、父を司法書士のところに連れていって返事だけさせた。
あとの処理は全部自分でやった。
裁判をすれば無効になるのか。
ただし令和元年8月26日 長谷川式認知スケール 6点の部分は
平成30年6月27日に贈与受けてから1年2カ月が立っている。
これも裁判で、「かみ」してもらえるんでしょうか。
(ひで)
※敬称略とさせていただきます。
【契約をするには意思能力が必要】
父と兄との贈与契約が有効に成立するためには、意思能力(自己の行為の法的な結果を認識・判断することができる能力)が必要です。
意思能力がない者がした行為は、法律には明文の規定はありませんが、無効と解されています(大判明治38年5月11日)。
そして、判例では、一般的に長谷川式認知症スケールの点数が10点以下なら意思能力がないと判断される傾向にあります。
もっとも、これは一応の目安であり、意思能力の有無は、実質的個別的判断に判断されるものであり、法律行為がいかなる種類の行為であるかによっても判定が異なることがあり得ます。また、判例では、長谷川式認知症スケールの点数だけでなく、契約当時の医師の診断書や介護記録の記載なども考慮されています。
また、書面による贈与契約の半年前に受けた長谷川式認知症スケールの点数が12点のケースで、書面による贈与が無効とされた判例があります(松山地判例平成18年2月9日)
※過去の【コラム】意思能力と長谷川式認知スケールに関する判例の紹介もご参照ください。
【父から兄への贈与契約は無効となる可能性がある】
本件では、平成30年6月27日の贈与契約直近の父の長谷川式認知症スケールの点数が不明です。
しかし、司法書士が意思確認をしているものの、平成27年11月は11点、令和元年8月26日は6点ですので、平成30年の贈与契約時点では10点を下回っている可能性があります。
よって、医師の診断書や介護記録等、他の事情も考慮しなければ判断できない部分もありますが、父から兄への贈与契約は、贈与当時、父に意思能力が無かったことを理由に無効にできる可能性は十分あります。
【贈与が有効とされた場合でも遺産分割の際に特別受益として持ち戻すことができる】
仮に父から兄への畑の贈与が有効と判断された場合であっても、将来、父が亡くなった際に、父の遺産分割において畑の価格を特別受益として遺産に持ち戻すということができます。
畑の価格を特別受益として遺産に持ち戻すと、兄は自分が相続する財産から、畑の価格が差し引かれます。
あなたが畑を絶対に自分のものにしたいという訳ではないのであれば、将来、父の遺産分割の際に解決するという方法もあるでしょう。
(弁護士 石尾理恵)


