【配偶者の居住権を長期保護する制度ができました】
前回のブログでは配偶者「短期」居住権について解説しました。
今度はもう一つの新制度である配偶者(長期)居住権についてお話しします。
(なお、当記事ではこの制度を短期居住権と区別して、「(長期)居住権」と呼ぶことにします。)
配偶者「短期」居住権は、建物の所有者である夫が亡くなった場合に、残された妻が今まで通り夫と居住していた自宅に住み続けられるよう、最低6ヶ月の居住権を保護する、という短期の居住権を保護する制度でした。
これに対し、配偶者(長期)居住権は、もっと長期的に、配偶者が死亡するまで居住することができる権利です。
この制度が作られた背景には、遺産が自宅の土地建物しかなく、お金が少ないケースでは、配偶者が自宅土地建物を相続するとお金の大半は他の相続人が相続することになり、配偶者がその後の生活資金に困るケースが相次いだという事情があります。
これをクリアして配偶者の生活を保護しようとしたのがこの制度です。
【家の所有権を相続せず、「居住権」だけを取得できます】
(長期)居住権は、配偶者が、家の所有者が亡くなられた時点(相続開始時点)で、亡くなられた方の建物に住んでいた場合に認められます。
これには次のメリットがあります。
・自宅土地建物など不動産は一般に価値が高いため、自宅の「所有権」を丸ごと相続すると、現金や預金など他の遺産は他の相続人に譲る必要が出てくる。
・しかし、自宅の「(長期)居住権」だけなら財産的価値が低いため、(長期)居住権の他、十分な現金や預金を相続することができる。
(参考 自宅の「所有権」を相続した場合と「(長期)居住権」を認めた場合の比較)
被相続人 夫
相続人 妻と長男
遺産 自宅(所有権) 1500万円
預金 1500万円
① 妻が自宅所有権を相続した場合
妻が相続する遺産 ・・・自宅(所有権)1500万円(預金はゼロ円)
長男が相続する遺産・・・ 預金 1500万円
このような分割になり、妻は預金を1円も相続できず、生活資金に困る事態が考えられます。
② 配偶者(長期)居住権を認めた場合
妻が相続する遺産 ・・・自宅((長期)居住権) 500万円(※仮定)
預金 1000万円
長男が相続する遺産・・・自宅(所有権)1000万円
預金 500万円
→ 妻は自宅にそのまま居住でき、かつ現金も相続できるメリット
これが配偶者(長期)居住権の大きな意味です。
※(長期)居住権の価格評価はあくまで暫定であり、個々のケースに応じて不動産の価値のほか、建物耐用年数や築年数、法定利率などを考慮して算定する必要があります。
【配偶者(長期)居住権が認められる2つの場合】
配偶者(長期)居住権は自動的に認められるわけではなく、次の①②③のいずれかの条件を満たす必要があります。
① 遺産分割で(長期)居住権を取得した場合
配偶者(長期)居住権を取得する最もストレートな方法です。
遺産分割を行う際に、配偶者が当該自宅への居住継続を希望し、他の相続人も配偶者(長期)居住権を認める内容で遺産分割協議が成立させることで、配偶者(長期)居住権が認められます。
② 遺言で配偶者(長期)居住権が指定された場合
亡くなった方(被相続人)の遺言で、配偶者に(長期)居住権を取得させることと記載されていた場合にも、配偶者(長期)居住権が認められます。
③ 家庭裁判所の審判で定められた場合
上記の①②以外にも、家庭裁判所の遺産分割審判で配偶者(長期)居住権が認められた場合も、配偶者(長期)居住権が認められます。
【上記期間中の賃料は不要です】
さらに、配偶者(長期)居住権により居住している期間中、賃料は不要です。
つまり、無償で住み続けられるということです。
他の相続人にとっては、所有権を取得しても自分で使用できず、第三者に貸して賃料収入を得ることもできませんが、(元々無償で居住していた)配偶者の保護のため無償とされたものです。
【配偶者【長期】居住権の制度の施行日は、2020年4月1日です】
配偶者(長期)居住権の制度は、2020年(平成32年)4月1日から施行されます(短期居住権と同じ)。
配偶者(長期)居住権の制度は、施行日後に開始した相続について適用され、施行日前に開始した相続については、適用されません。
ご注意ください。