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■ご質問内容
父が亡くなり、相続人が妻と子供二人
子供二人は相続放棄を希望している。
父死亡後、父名義の土地に買い手が見つかり、売却手続きを早急に進めたい。
妻が全てを相続し、子は相続を放棄するという内容の遺産分割協議書に、相続人全員
が署名と実印を押した後に、
子2人は、家庭裁判所であらためて相続放棄の手続きをしても、認めてもらえるのか
教えて下さい。
■ニックネーム
ロッテくん
【回答】
1.相続放棄とは・・
法律でいう「相続放棄」とは、相続を知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所に対して≪相続はしません≫という申立をすることです。
このような申立てが裁判所に受理されて、初めて相続放棄の効力が生じます。
相続放棄の効果としては、相続人ではなくなるため、被相続人の資産をもらうこともなく、また、債務を受け継ぎませんので、被相続人の債権者からの請求を拒むことができます。
しかし、遺産分割協議書の中で相続を放棄するという文言を記載しても、また、遺産はいりませんと記載し、遺産を全くもらわなかったとしても、それは「相続放棄」ではなく、相続人として財産をもらわなかったというだけのことです。
そのため、このような場合には、債権者から請求を拒むことはできません。
2.遺産分割協議書で相続放棄と記載し、署名捺印した場合はどうなるか?
今回のケースでは、既に遺産分割協議書に署名捺印したかどうかは質問からは明らかではありません。
もし、まだ、署名捺印していないのなら相続放棄の申立は、問題なく可能です。
しかし、既に署名捺印していたという場合は問題になります。
今回のケースはおそらくこのケースでしょう。
法律では、相続財産の全部または一部を処分したときは相続を承認したことになるとされています(民法921条1項)。
遺産分割協議書には署名捺印したが、遺産はもらわなかったということであれば、相続財産の処分をしたことにならないという考え方があります。
この見解では相続したことにはならず、相続放棄はできるという結論になります。
しかし、その一方で、相続人でしかできない遺産分割協議書を作成した、自分が本来、相続していたはずの遺産を他の相続人に渡したという点を強調すると、遺産を処分したと言えるのではないかという見解もあり得ます。
この立場では、既に遺産を処分しており、そのような行為をした人は相続したものとみなされることになります。
3.結局、申立できるのか、できないのか?
回答者(大澤)としては、遺産協議書に署名調印しても、遺産を自ら取得して処分していない限りは相続放棄が可能ではないかと考えています。
質問者としても、相続を承認したことにはならないとの見解に立ち、相続放棄も申立てをされるといいでしょう。
参考までに言えば、裁判所に提出する相続放棄申立には、なぜ相続放棄をするのかという、ある程度の事情を記載する欄があります。
しかし、既に遺産分割協議書に署名捺印したというようなことをあえて記載すべき欄はありません。
そのため、裁判所としては、申立書の記載内容だけを見て、問題がないとして相続放棄申立を受理することになります。
その結果、質問者としては、被相続人の債権者からの請求があっても、相続放棄をしたことを理由に、請求を拒むことが可能です。
ただ、債権者の立場から言えば、仮に相続放棄の申立が受理されていても、遺産分割協議書に署名捺印した以上、それは遺産を処分したことであり、相続放棄は認められないと主張することも可能です。
その場合には、訴訟などで、相続放棄の効果があるかどうかが検討されることになります。
(弁護士 大澤龍司)



