(前回の続きより)
【「相続させる」旨の遺言における遺言執行者の権限】
例えば、父が遺言書の中で「私の自宅土地をAに相続させる」と書き、遺言執行者を指定していた場合(このような遺言を「特定財産承継遺言」といいます)、父の死後に遺言執行者は、自宅土地の名義変更ができるのでしょうか。
当然にできるはずだと思われる方が多いのではないでしょうか。
しかし、旧民法下では、遺言執行者にそのような権限はありませんでした。
「相続させる」という書き方では、死亡と同時に権利が相続人に承継されるから、遺言執行者の出番はない、との考えからです。
ただ、これにより、相続登記が放置され、所有者が不明確となっている不動産が社会問題化している背景もあり、今回の改正で、遺言執行者が単独で所有権の移転登記手続きを行うことができるようになりました。
また、合わせて、遺言執行者に預貯金の払戻・解約の権限も認める文言も加えられました。
ただ、従来から実務上は、遺言執行者に預貯金の払戻・解約権限を認める扱いが金融機関に浸透していましたので、法律上正式に明文化されたというだけです。
《改正民法1014条2項、3項》
2 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第899条の2第1項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。
3 前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。
【遺言執行者の復任権】
旧民法でも、やむを得ない事由があれば復任権(遺言執行者が第三者にその任務を行わせること)を認めるとの規定はありましたが、改正民法においても、復任権が規定されています。
これは、遺言の場合は、遺言執行者に任務を委任した遺言者はすでに死亡しているため、復任の自由を認める必要が大きいとの理由に基づくものです。
ただし、復任権を行使した場合には、遺言執行者は相続人に対して、その選任及び監督についての責任を負うことになります。
《改正民法1016条》
1 遺言執行者は、自己の責任で第三者にその任務を行わせることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
2 前項本文の場合において、第三者に任務を行わせることについてやむを得ない事由があるときは、遺言執行者は、相続人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。
【遺言執行者から相続人への通知】
改正法では、遺言執行者は就任後に遅滞なく相続人に対して通知をしなければならないとの規定が加えられました。
改正により、上記の通り遺言執行者の権限が強化されたこともあり、遺言執行者に通知が義務付けられました。
これにより相続人は、遺言の内容や遺言執行者を知ることになります。
《改正民法1007条2項》
遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。
【この改正の施行日は、基本的に2019年7月1日ですが、例外があります】
基本的に、遺言執行者に関する改正の施行日は、2019年7月1日です。
ただし、1007条2項の遺言執行者の通知義務や、1012条の遺言執行者の権限については、2019年7月1日より前に開始した相続であっても、遺言執行者が就任したのが施行日以後である場合は、改正法が適用されます。
また、1014条2項から4項に記載した「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)については、2019年7月1日以後に相続が開始しても、遺言の作成日が施行日前であれば改正法は適用されないため、遺言執行者は単独で登記等をすることができないということになりますので、注意が必要です。