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実例Q&A

相続財産の換価分割の手続について【Q&A No.752】

2022年4月22日

【質問の要旨】

・相続対象である土地の上に、相続人A所有の建物が存在する

・家庭裁判所で遺産分割の手続きをしたいが、土地について換価分割の方法で分割するためには、Aの同意が必要か

 

 

 

 

【回答の要旨】

・法的にはAの同意なく土地の売却が可能

・ただし、土地を売却した場合、買主とA、売主とAの間に争いが生じる可能性が高い。

・土地についてはAの単独所有とし、Aが代償金を支払う方法が最も妥当

・Aに代償金の支払い能力がなければ、共有のままという解決もある

【題名】

使用貸借権付き土地の換価分割について

【ご質問内容】

  1. 相談前提

相続対象は土地、相続人は4人、相続人のAは、相続する土地の上にAの夫名義の建物を所有しており、そこに居住中で使用貸借権がある。

売却して現金化し、相続人間で分割したいと思うが、Aが承諾しない。

 

  1. 質問内容

家裁で相続割合を決定し、地裁で換価分割請求をかければ、Aの承諾が無くても競売に掛ける事は出来るか?

質問のポイントは、使用貸借権があることにより競売による換価分割が出来ないという事はあるか?という点。

(競売が出来ても値が落ちる、費用が引かれる等は別の問題とし、前述の強制競売の可否について知りたいのです)

(困ったちゃん)


 ※敬称略とさせていただきます。

 

【回答】

第1 使用貸借されている土地の相続はややこしい・・

1.問題の整理

まず生前の権利関係を整理します。

底地は被相続人の所有である。

その上にAの建物がある。

Aは被相続人から無償で土地使用をしているので、土地の使用貸借契約が存在する。

このような使用貸借がからむ場合の遺産分割の問題ですが、以下に述べるようにいろんな問題点があります。

 

2.貸主の被相続人が死亡では使用借権は消滅しない

被相続人が死亡した場合、Aとの使用貸借契約がどうなるのかを検討します。

使用貸借契約は借主(本件ではA)が死亡した場合には契約は終了します。

しかし、使用貸主である被相続人が死亡した場合には終了しませんので、Aの使用借権は存続します。

 

3.使用貸借付きの土地でも第三者に譲渡できる。

使用貸借権付きの土地でも法律的には譲渡が可能です。

本件に即して言えば、もし、家庭裁判所で底地がA以外の相続人に帰属させるという内容の審判が出た場合、その土地を取得した相続人が第三者に土地を譲渡することは法律的に可能です。

例えば、抵当権が設定されていても、借地権が設定されていても、法律的には何ら問題なく譲渡はできますし、本件のような使用貸借がある場合でも同様に譲渡可能です。

 

4.底地が第三者に譲渡されると、使用者権Aは退去しなければならない。

土地を相続した人が、第三者に土地を売った場合には次のような問題が発生じます。

買主が退去を求めた場合、Aは建物を撤去して土地を明け渡す必要があります。

(参考までに言えば、借地の場合には、その底地が売却された場合でも、借地権者は立ち退く必要はありません。賃料を払っている賃借人の場合には、借地借家法という法律で、その権利(借地権)を買主に主張することができるとされているためです。その結果、借地関係は買主に引き継がれ、買主が賃貸人の地位を承継し、新しい賃貸人になります。)

しかし、無償で土地を使用しているAについては、借地者借家法が適用されませんので、買主が請求すれば、は建物を撤去して、土地をでていかなければならないという結論になります。

 

5.Aは土地の売主に賠償請求ができる

仮に、買主から土地を追い出されたとき、Aは土地の売主の相続人に損害賠償を請求することができます。

なぜなら、土地の相続を受けた人は土地の権利を取得しますが、同時に土地を無償でAに使用させるという義務を被相続人から受け継ぎます。

土地を売却すると、売主の相続人はその義務が履行できなくなりますので、Aとしては損害賠償を請求することになります。

 

第2 解決方法

以上の話を前提に、どのような解決があるのかを考えてみます。

 まず、土地はAに相続させて、Aから他の相続人に代償金の支払いを命じるというのが、もっとも妥当な解決です。

調停になれば調停委員もこの方向を目指すでしょうし、審判をする裁判官もそのような方向での決着を考えます。

 

1.共有での解決もありうる

しかし、遺産は土地以外にほとんどない、Aも裕福ではなく、代償金を出せないという場合には、この方法での解決はできません。

その場合には、(私が審判をする裁判官の立場なら)相続人の全員の共有にします。

相続人の共有なら、土地を売却するには共有者全員の同意が必要ですので、Aの意思を無視して土地を売却することができません。

相続の場合、不動産については、可能な限り単独所有になるように考えます。

問題を将来に残さないためです。

遺産分割では相続人全員の共有という審判で決着し、後は相続人間でゆっくりと解決のための時間をかけて良い解決案を考えていただくというのが、望ましいとは思わないですが、やむをえない解決ということになります。

 

2.結論は法的には譲渡は可能だが、裁判所はそのような方向を目指さないだろう。

これまでの説明をまとめると、

① 法的には、土地を単独取得した者がAの同意なく土地を売却することができる。

但し、その際には、これまで説明したように、買主とA、売主とAとの2つの場面で争いが生じる可能性がある。

② 裁判所は、A以外の相続人の単独相続の方向では動かないだろう。

前記のような争いが生じることを考慮すれば、裁判官としては、A以外の単独相続ではなく、相続人全員の共有という方向で判断すると思われる。

なお、調停では、Aは自分以外の者が土地を単独取得することに同意しないので、調停は不調で成立しないと思われる。

(弁護士大澤龍司)

 

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