父名義の実家と不動産の将来の相続についてお伺いします。家族構成は、実家に父と母、実家の近所に兄家族,私と私の家族は実家とは別居です。父名義の不動産は実家から遠方にあり、現在不動産収入を得ています。兄家族と私の家族は関係が悪く、実家に近づくことができません。私は数年後に海外移住の予定です。将来父や母に何かあった時に、兄から連絡がこない可能性大です。相続について兄と話し合ったり協力して進めることは不可能なので、兄家族と顔を合わせないで相続をスムーズにできるよう今のうちから準備が必要だと両親と話しています。こういった場合は遺言執行人を立てるのが良いのでしょうか?アドバイスをいただけますと幸いです。よろしくお願いいたします。
【ニックネーム】
笹まる
【回答の詳細】
父親の近所に住む兄家族と話し合いができない場合に、父親の生前からどのような相続対策ができるでしょうか。
相談者も遺言執行者を立てるのが良いのかというアイデアをお持ちのようです。
はじめに、遺言と生前贈与のメリットと問題点を説明した後に、相談者の場合にはどのような方法が望ましいかを、解説したいと思います。
第1 遺言
遺言書を作れば相続の時に話し合う必要がない
被相続人が遺言書を正しく作成すれば、相続の時に、他の相続人と遺産の分割について相談する必要はありません。
兄家族と相続財産の分け方について話し合いを持つ必要はないでしょう。
その際に、弁護士など公正な立場の遺言執行者を決めておけば、遺言の執行においても、兄家族と執行の方法について話し合いを持つ必要もありません。
遺言書は後から何度でも書き換えが可能である
しかし、遺言書は後から何度でも書き換えが可能です。
父親の生前に話し合いにより遺言書を一度作成したとしても、その後父親の気が変わったといって遺言書を書き換えないという保証は全くありません。
第2 生前贈与
後から贈与を覆すことはできません
これに対して、生前贈与であれば、生前に贈与された財産は被相続人の意思で、後からそれを無かったことにすることはできません。
その意味で、生前に行った贈与には保証があるといえます。
税金が高くなる可能性が高い
しかし、生前贈与で不動産を譲り受けた場合には、金額にもよりますが、相続税より高い税率の贈与税が課税される場合があります(なお、相続時精算課税制度を利用すれば2500万円まで非課税となります。)。
また、不動産の名義変更に伴う登録免許税も相続による場合には0.4%で済むのに対し、贈与の場合には2%となります。
他方、110万円以下の贈与は贈与税がかかりません。
第3 本件の場合
遺言書はお勧めできない
通常、両親が高齢の場合に生前の相続対策としては遺言書をお勧めします。
しかし、このケースでは遺言書はお勧めできません。
仮に、父親が今「よし分かった!収益不動産は相談者にやろう!」と言って遺言書を作成したとしても、それが守られる保証はありません。
兄家族は父親の実家の近所に住んでおり、いつでも父親に遺言書の書き換えを依頼できる立場にあるからです。
そうなると、ただでさえ仲が悪い兄家族と、相続をめぐってトラブルを抱えてしまいます。
生前贈与の方法が相談者にとって望ましい
ご両親とは、すでに相続の話をされているようですから、父親が納得してもらえるなら生前贈与の方法を検討するべきです。
生前贈与をするのに、兄の合意は必要ありません。
例えば、「私は外国に行くので、将来、兄と遺産分割の話はできない。そのため、相続分の遺産を生前贈与してほしい。それ以外の遺産は兄に相続させるという遺言書を作ってもらっても文句は言わない」などということで、父親を説得されてはいかがでしょうか。
そうすれば、将来、相続について兄家族と話をする必要はありません。
贈与の方法は専門家に相談するべき
ただし、生前贈与によって高額の不動産を譲り受けた場合には、高額の贈与税がかかることがあります。
これを避けるため、不動産を売却したうえで、現金を毎年110万円以内で贈与するという方法もあります。
父親の実家を譲り受けた場合には、両親の居住権をどう確保するかという問題があります。
また、収益不動産を譲り受けた場合には、海外から収益管理ができるのかという問題もあります。
どの不動産をどのような方法で贈与を受けると良いか関しては、税理士や弁護士など専門家の助言を聞いて、相談者と父親が納得のいく方法を選択されると良いでしょう。
(弁護士 岡本英樹)