【ご質問内容】
兄が亡くなり、相続人は兄弟である私と妹の2人。
(兄は独身で、両親も既に他界)。
兄が亡くなり、生前に4900万円の使い込みがあった事が、分かった。
出金伝票の筆跡は兄と同居していた妹のものだった。
兄の死亡日の残高は11万円程で、その11万円は、死亡日の1週間後に、未払いの入院費として妹によって引き出され、貯金残高は、0になっていた。
兄の死後、兄には500万円の借金がある事が分かった。
しかし、返還請求できる金額が2450万円だったので、不当利得返還請求する準備をしていた。
ところが、最近(兄の死後、6か月以上経った今になって)妹が兄の遺言が見つかったと言って出してきた。
間違いなく兄の筆跡で、遺言内容は、「私のすべてのお金と、貯金を妹に相続させる」だった。兄には貯金以外に財産が無い。当てにしていた2450万円が貰えないばかりか、500万円の1/2の借金だけが残り、困っています。
【ニックネーム】
クミン
【回答】
1 念のために有効な遺言書かどうかを確認する
兄の遺言書は自筆なので、遺言書が法的な要件を充たしているかどうか、念のために確認しておくといいでしょう。
参考までに言うと、自筆が有効な要件は次のとおりです。
- 遺言書の全文(遺産目録を除く)が自筆であること
- 日付の記載があること
- 氏名が自書され、押印があること。
2 不当利得返還請求権は誰のものになるのか・・遺言書の解釈の問題
妹が、被相続人の預金を生前に4900万円を使い込んだ場合には、被相続人は妹にこの使い込み額の返還請求権を持つことになり、この債権は被相続人の死亡後は遺産になります。
ところで遺言書には「私のすべてのお金と、貯金を妹に相続させる」と記載されていますが、先ほど述べた不当利得請求権という債権がどうなるかは記載されていません。
これについては、
- 文言(言葉の)上から、債権は記載されていませんので、相談者と妹が2分の1ずつ相続するということになります。
- あるいは、不動産などは別として、金銭的なもので「お金」や「貯金」を妹にとある以上、少なくとも不当利得請求権という債権も、同様に妹に取得させるという意味で理解することも可能かもしれません。
要するに遺言書の解釈が人によって異なる可能性があるということです。
3 借金は誰が支払うのか?
被相続人の借金は原則として、相続分に応じて、各相続人が負担します。
本件では相談者と妹さんが各2分の1ずつを負担しますので、相談者としては半額の250万円を支払う必要があります。
ただ、遺言書の理解で、もし、妹が全部を相続するという理解であれば、その時は妹が債権者に債務全額の500万円を支払う義務があるということになります。
4 不当利得債権を請求するメリット、デメリットを考える
遺言書の理解にもよりますが、もし、相談者が不当利得債権を請求できるとしても次の点を考える必要があります。
- 妹が被相続人に勝手に金を引き出し、しかもその金を被相続人のため以外に使用したという証明が必要だと思われるが、それがどこまで可能なのか?
- 仮に上記の点が証明可能としても、妹は不正取得した金銭を今も持っているのか?
仮に裁判に勝ったとしても、妹が財産を持っておらず、あるいはどこかに隠していたりした場合、判決を執行することができません。
その一方で相談者は債権者から債務の支払請求を受けた場合には、半額の支払いが必要です。
これらの点も考慮すると、果たして相手方に請求し、場合によっては調停や訴訟の提起というところまで行くのか、あるいは他に方法はないのか。
もし、妹に財産が残っていないというのなら、相続放棄さえも考えざるを得ないかもしれません(熟慮期間経過後も例外的に認められる場合があります)。
この点は、相続に詳しい弁護士と是非、相談されるといいでしょう。
(弁護士 武田和也、同 大澤龍司)