【ご質問内容】
よろしくお願いいたします。
6月に重婚的内縁関係にあった夫が亡くなり、遺族年金の請求をしました。
当然、本妻には調査が行き、不支給決定通知が届きました。
ねんきん事務所にその理由を問い合わせたところ、生活費はもらっていないが訪問があった、と書かれていたため、婚姻関係が形骸化しているとはいえない、という結論だったそうです。納得がいかないので、審査請求をしようと思います。
1、私と内縁夫は住民票は一にしていた。
2、16年以上にもわたる別居の間に、3回入院したが訪問もお見舞いも無し。
3、内縁夫の母親が亡くなった時、葬儀に参列しなかった。私は会社関係、親族に妻として紹介され認知されていた。
4、内縁夫の通夜、葬儀は私が喪主を務め、支払いもした。その後の法要、納骨も私がしたが、本妻はその一切に関わるつもりはなく、連絡もない。
5、訪問があったと言っているが、その確たる証拠がない。一人息子のこともしくは、離婚調停に関することで訪問したと想像できる。
6、生活費を渡した形跡がない。
などから、夫婦関係が修復できる見込みがない状態であったと思います。生活を共にして世間にも夫婦として過ごしてきた私が配偶者として認められるべきだと考えます。
しかしながら、法で守られている本妻の方が遺族年金を受給できる立場にあるのかと思うと、悲しくなります。
どうせ受給できないなら、両方ともに受給資格がない方がまだましです。
このような状況で、審査請求をして何か変わる余地はあるでしょうか。
【ニックネーム】
ちい
【回答】
夫が死亡したとき、遺族年金や未支給年金は原則として戸籍上の妻(以下、「妻」といいます)に支給されます。
ただ、夫が家を出て、他の女性と長年にわたり同居し、妻よりも親密な関係にあるような(重婚的内縁。以下、「内縁の妻」といいます)場合、例外的に内縁の妻に支給する場合もあります。
やや長くなりますが、回答していきます。
1.遺族年金や未支給年金の受給資格についての法律
遺族年金は次の要件を充たした人に支給されます(厚生年金保険法59条)。
①受給権者の配偶者等であり、
②受給権者の死亡当時、その者によって生計を維持した人
又、未支給年金もほぼ同様の基準で支給されます。
このように法律では、妻が受給資格者ですが、例外的に内縁の妻が受給できるという扱いになります。
2.例外的に内縁の妻が受給できる基準
例外的に、内縁の妻が受給できるのは次のような場合です。
A:一方の悪意の遺棄によって夫婦としての共同生活が行われていない。
※悪意の遺棄とは夫が勝手に家を出て、別居を始めたような場合です。
B:その状態が長期間(おおむね10年程度以上)継続し、当事者双方の生活関係がそのまま固定していると認められるとき
ただ、上記Aの「夫婦としての共同生活が行われていない」というのは抽象的でわかりにくいため、次のような具体的判断基準が定められています。
(平成23年3月23日付年発0323第1号厚労省年金局長通知「生計維持関係等の認定基準及び認定の取扱について」(以下、「認定基準」といいます)。
a 当事者が住居を異にすること
b 当事者間に経済的な依存関係が反復して存在していないこと
・・・生活資金の送金、妻の住んでいる建物の賃料支払い等、夫が妻に経済的援助をしていないこと
c 当事者間の意思の疎通をあらわす音信又は訪問等の事実が反復して存在していないこと。
・・・妻との間での手紙やメールのやり取り、訪問、面会等がないこと
3.相談者の今後の対応について
1)不支給決定が納得できず、審査請求した場合、相談者としては積極的に次のような行動や対応をする必要があります。
2)今回の相談のケースでは、前記Bの認定基準が問題となっていますが、Baの別居及びBbの経済的援助の要件は問題がなく、Bcの音信・訪問等があった点が問題とされ、不支給決定がされたようです。
そのため、今後、審査請求をするのであれば、この音信・訪問等があったという点をどのように崩していくかというところが主な争点になります。
具体的な状況はわかりませんが、相談者側の取るべき方策として次のようなものがあります。
①音信や訪問を裏付ける客観的な資料があったのか。
②もし、何らかの資料があったとしても、その資料が果たして音信・訪問を直接、裏付けるものかどうかの確認が必要。
③仮に訪問等があったとしても、回数が少なと言えないかを検討する。
④もし、客観的証拠がなく、相手方(戸籍上の妻)の話など⑤の記憶だけに基づく場合には、その供述を潰す方法を考える必要がある。
⑤相談者側で音信や訪問を否定できるような資料がないかを検討する。
なお、質問には《訪問があったと言っているが、その確たる証拠がない。一人息子のこともしくは、離婚調停に関することで訪問したと想像できる。》と記載されています。
相手方が言っているだけなら、上記④と⑤の対応をするといいでしょう。
4.弁護士の協力を考えてもよい。
前記のように、審査請求後、相談者側で積極的な立証活動をする必要があります。
なお、当事務所は、本件と同様のケース(但し、妻側)を扱い、国側に補助的に参加し、その後の訴訟になったのですが、昨年、当方の勝訴判決が確定しました。
国側は専門の担当職員が複数で事件を担当していますし、訴訟にもなれば民事担当の検察官も参加してきます。
専門家でない(と思われる)相談者だけの力では、なかなか対応がむずかしいのではないでしょうか。
もし、可能であれば、早期の段階で弁護士に相談されることをお勧めします。
その上で、どのような点が問題になるのか、その点をどのような方針で戦っていけばいいのかを、更には勝訴見込みなど、弁護士に判断してもらうことも必要でしょう。
(弁護士 大澤龍司)