【質問の要旨】
亡・母の預貯金を相続人である相談者の兄弟が出金していたことが判明した。
母の死亡から7年経過しているが、出金したのが誰であるかは判明している。
金融機関の関与なしに出金することは考えられないが、金融機関に請求することはできるか?
出金した兄弟に請求しなければならないか?
【題名】
不正出金と金融機関
【ご質問内容】
生前、4人兄弟のうち、2人が母の遺産を全額不正出金。母の死後7年で事実を把握。
金融機関関与なしではありえない。
このような場合、抜き取った兄弟と、争わなければならないのか?
窓口で、全額抜き取らせた金融機関対応を問い詰めても、窓口で下ろした人が問題にされるのか?
理不尽と思うけど、金融機関は守られているのでしょうか?
ここまでの、時間は3年に及び、疲れ切っています。
いろいろな問題に、お答えいただいておりますが、裁判しないと全容は出さないという事が続いています。相手は、判明しているのに、疲れる話です。お答え、お願いします。
【ニックネーム】
むうちゃん
【回答】
1.金融機関へ責任追及するにはしっかりした証拠が必要
金融機関に責任追及をするには、それなりの証拠が必要です。
証拠で証明できない限り、裁判所も、もちろん警察も相手にしてくれません。
ところで、金融機関はその預貯金を出し入れする際、払戻伝票や送金控えなど、きっちりと書面を残しているのが普通です。
そのため、そのような書面が出てくることを前提にした上で、なおかつ金融機関の責任を追及できるようなしっかりした証拠が必要です。
例えば金融機関から取り寄せした書類に偽造等があったとしても、それだけでは足りず、金融機関がそれに関与したことまで証明する必要がありますので、証拠集めに全力を注がれるといいでしょう。
2.やはり使い込んだ兄弟などに責任追及するのが原則
もし、出金をしたのが相談者の兄弟のうち誰であるか特定できるのであれば、その兄弟に対して、出金した金額のうち相談者の法定相続分(父が先に亡くなっている場合は4分の1、父が生存している場合は8分の1)を請求することになります。
なお、出金をした相続人に対して、請求する場合でも、その相続人が出金したことについて、客観的な証拠が必要となります。
今回のケースでは、母の死後7年が経過しておりますが、金融機関に対しては10年分遡って取引履歴を取り寄せることができますので、できるだけ取得をすることをおすすめします。
また、出金した兄弟に請求する際には、窓口出金の場合であれば、出金伝票の取り寄せを行い、筆跡の確認をして、母本人が引き出したものではなく、兄弟の筆跡であることを確認することが重要です。
もし、出金したとされる兄弟と筆跡が一致するのであれば、出金伝票も重要な証拠の一つといえます。
3.相手方との交渉で解決ができないのであれば訴訟となるが、時効の可能性もある
出金した金額が客観的資料などから判明しており、出金したのが誰であるかもはっきりしている場合は、その相手方に請求することになります。
まずは訴訟外での交渉をすることになりますが、そこで合意ができなかった場合は訴訟手続が必要となってきます。
法的には、不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求ということになります。
4.時効について
今回のケースは、母の死後7年経過しており、さらに相手方を知ってから3年ほど経過していると考えられることなどから、上記請求権について消滅時効が完成している可能性があります。
不法行為は損害及び相手方を知ったときから3年、不当利得は利得(預金の引き出し)されたときから10年で消滅時効が完成します。
今回のケースでは、請求できるとしても、母の死亡から遡って3年分程度である可能性があります。
(弁護士 山本こずえ)