【質問の要旨】
・母が5年前から認知症。
・3年前に実家で母が一人の際に親戚が母の面倒をみていたが、その頃に母の宝飾品(1000万円相当)が行方不明になった。
・姉はそのことを知らず、以前から母の宝飾品が欲しいと言っている。
・すでに宝飾品が無くなってしまっていることを証明するためにどのような手続きをとるべきか。
・もし何の手続きもしなければ、母が他界したときに、相談者が宝飾品を譲り受けたことになるのか。
【題名】
実家の宝飾品について
【ご質問内容】
家族構成
父、母(5年前から認知症発症 今年から施設に入所) 実家で二人暮らしで、今年母が入所したので、今は父が実家に1人暮らし
姉 既婚 実家近くに住むが、母の世話を拒否し、実家と絶縁状態
私 既婚 実家から遠方に住むが、時々帰省し実家の面倒を見る
現状 姉が実家と絶縁しているので、父が遺書(全財産を私に残す)を弁護士に頼み公正証書遺言を作成した
問題 母の宝飾品(1000万相当)が、金庫から全て無くなってしまった。経緯としては、父が癌の手術をした3年前に、コロナ流行があり私が実家に帰省できず、代わりに親戚に父の入院期間に実家に半月ほど寝泊りしてもらった。(母が当時は実家に居たが認知症を患っていた為)
父が退院して、実家に戻りしばらくして金庫の宝飾品が無くなっている事に気づくが、認知症の母がどこかに隠したと思っていた。
コロナが明けて、私が頻繁に帰省できるようになり、実家の整理を父としていたが、自宅のどこを探しても宝飾品が見つからない。
母は認知症を患っているので、遺書を書けず、姉は母の宝飾品が欲しいと以前から主張していた。 姉は母の宝飾品が無くなっていることを知らず、もし母が他界した時は、母の宝飾品を相続する事を主張する事が見込まれる
既に宝飾品が全て無くなってしまったが、それを証明する為に今からどのような手続きを取るべきかお教え下さい(父は親戚を疑っているが、親戚の為警察に被害届を提出することをためらっている)
また、もし何の手続きもしなければ、母が他界した時に、私が無くなった宝飾品を勝手に譲り受けた事になるのでしょうか。。。その場合は、遺留分として私が姉にお金を支払うことになるのでしょうか。。。
【ニックネーム】
さな
【回答】
1 他に遺産があることを主張したい側に立証責任がある
母の宝飾品が3年前から行方不明になっています。
姉はそのことを知らず、母が将来亡くなった際には、宝飾品がほしいと主張することが予想される状況のようです。
しかし、遺産分割は、被相続人の死後に残された財産を分ける手続きです。
母が将来亡くなったときに、宝飾品がないのであれば、たとえ過去に宝飾品を所持していたとしても、遺産分割の対象にはなりません。
姉が、母の死亡当時に宝飾品があったはずだと主張したいのであれば、姉がそのことを立証しなければなりません。
ですので、相談者が、母の死亡時に宝飾品が無くなっていたことを立証する必要はなく、何らの手続きも取る必要はありません。
2 生前贈与を主張したい側に立証責任がある
姉は、母の死亡時に宝飾品がないのであれば、母が生前に相談者に宝飾品を贈与したのではないかと疑う可能性があります。
そして、相談者が先に1000万円相当の宝飾品の贈与を受けているのだから、遺産分割に際して、姉は、自分の取り分が多くなるはずだと主張するかもしれません。
しかし、生前贈与を主張したい側に生前贈与の事実を立証する責任があるので、この場合、姉が、母が相談者に宝飾品を贈与したことを立証しなければならないということになります。
したがって、相談者は、自分が宝飾品をもらっていないことの証拠を集める必要はありません。
3 遺留分は母の相続ではなく父の相続で問題になる
母は遺言書を残しておらず、父のみが遺言書に全財産を相談者に相続させると書いている模様です。
そのため、母の相続では、相談者と姉とで法定相続分1/2ずつ遺産を分けるということになります。
宝飾品は母のものなので、母の相続の際に宝飾品のことが問題になってきます。
父の相続の際には、父の遺産をすべて相談者が取得することになるので、遺留分として相談者が姉にお金を支払う必要が生じてくると考えられます。
(弁護士 武田和也)