【質問の要旨】
【題名】
遺言書無効訴訟
【ご質問内容】
被相続人の遺言書が2通あります。
公正証書遺言(第一遺言書)は6月に作成され、10月に自筆証書遺言(第二遺言書)が作成されました。
遺言者は、遺言書作成時には、認知症ではなく意思能力も問題ないと主治医の診断書があります。
今般、二人いる相続人の一方から自筆証書遺言の無効確認請求訴訟をおこされました。
理由として、①自筆ではない、②三文判での押印、③公正証書遺言書は双方の相続人が立ち会って作成(証人は訴えた側が手配)したのに、勝手に自筆証書遺言書を作成し、隠して持っていたから作成過程がおかしい、等の理由です。
自筆証書遺言は間違いなく、本人が自筆で押印したものです。実印は原告が管理保管していたため、三文判での押印になりました。
どのように反論(主張)すれば良いのでしょうか?
宜しくお願いします。
【ニックネーム】
トレイン
【回答】
1.遺言が無効だということを証明するのは原告側です
遺言無効確認訴訟においては、原告側が遺言が無効だということを主張して、証明することが必要になります。
今回のケースでは、遺言者本人の意思能力に問題がなかったという前提で考えていきます。
まず、原告側としては自筆証書遺言を作成したのが本人ではない第三者であると主張しています。
その証明としては、原告としては、遺言書を第三者が作成したという事実が直接分かるような証拠がないため、
①筆跡が本人ではない
②三文判を使っている
③作成過程がおかしい
等と間接的な事実を主張していると考えられます。
しかし、いずれも決定打に欠ける主張であり、原告側も無効の証明がなかなか難しい訴訟だといえます。
2.反論のポイント
上記のとおり、原告側に立証責任があることや、今回のケースではそのハードルが高いということからすると、被告側としては、「本人が自筆証書遺言を作成した」事実について、積極的に証明が必要なわけではありません。
ただし、被告としても、積極的に反論していく場合には以下がポイントとなります。
①筆跡について
筆跡については、遺言者本人の筆跡や相談者の筆跡の分かる資料を提出し、筆跡鑑定をだすことが考えられます。
ただし、筆跡については、明らかに本人ではないことが分かるようなケースを除き、判断が難しく筆跡だけが決め手になることはあまり考えられません。
②三文判を使っていることについて
まず、自筆証書遺言は、実印の押印がなくても有効とされています。
そのため、三文判であるからといってただちに無効になるわけではありません。
ただし、一般的なことをいえば、三文判は大量生産されている印鑑ですので、第三者でも購入して押印することができます。
そのため、実印が押印されているケースと比べると、「第三者が押印した」と主張しやすいことになります。
もっとも、三文判が押されているだけで「偽造した」といえるわけではありません。
もっとも、相談者としても、なぜ三文判なのかという点については、事情を説明したほうがよいでしょう。
③作成経緯について
相談者としては、公正証書遺言を作成した4ヶ月後に、自筆証書遺言を作成することになった事情の説明をすることが考えられます。
公正証書遺言は公証役場に行き、公証人が遺言者の意思確認などして厳格な手続で作成する遺言書ですし、費用もかかります。
そのような手続を経て作成した遺言書について、わずか4ヶ月で内容の異なる遺言書を作成するのは、何か事情があったのではないかと裁判所が考える可能性も否定はできません。
上記事情について、きちんと筋の通った説明をした上で、なんらかの裏付証拠が提出できるのであれば提出するのが望ましいでしょう。
(弁護士 山本こずえ)