まず、娘が相続放棄をし、その後に相続人となる親(親が放棄した後は兄弟)が相続放棄をしないのであれば、親(親が放棄した後は兄弟)に対し、賃貸借契約を解約して欲しいと連絡をとってみるとよいでしょう。
ただ、賃貸人側としても、そのような状況であれば契約解除をしたいと思うはずなので、賃貸人に働きかけて、賃貸人側から賃料不払いを理由に解除してもらってはどうでしょうか。

先般、義理の弟が他界しました。故人は離婚歴があり、娘が一人(今年12月に18歳)います。
故人はマンションに一人暮らし(私が連帯保証人)でしたので、亡くなった後の資産等は娘が相続することになると思いますが、故人の会社が「12月まで退職金等の支払いはしない」といっており、元奥様は「相続放棄」を前提に現在司法書士をたてて対応中です。そのため、我々から故人のマンションへの入室や片付け、家主様へのご挨拶もしかねている状況です。ここでご質問です。このままですと、12月まで何も動かない状況で、家賃や公共料金が増えていくばかりです。最終的に「相続放棄」した場合、マンション関係の費用は連帯保証人に請求がくるのでしょうか?こちらとしては、先方の司法書士に対して早めの対応をお願いしていますが、12月の資産の確認まで先延ばしにしたのは先方であり、その分含めて連帯保証人が負担することに納得がいきません。
【ニックネーム】
ジェダイ
1.相続関係
今回のご相談では、亡くなったのは相談者の義理の弟です。
義理の弟は、マンションを借りており、相談者は連帯保証人となっています。
相続人は、娘のみです。
娘の母(元妻)は、相続人ではありませんが、娘のために相続放棄を検討しているという状況と考えられます。
2.相続放棄の検討
今回のご相談では、被相続人の会社から12月頃に退職金が支給されるとのことです。
前記退職金が、死亡退職金である場合、被相続人の家族が、退職給与規定等に基づいて企業から直接支給されるものであるため、被相続人の相続財産には含まれません。
そうすると、前記退職金を除く相続財産が債務の方が多いということであれば、相続放棄ということも十分あり得ます。
3.相続放棄した場合
相続人(今回は娘)が相続放棄をする場合、その相続人は相続財産を処分することができなくなります。
相続財産を処分してしまうと、単純承認(一切の相続財産の承継を承認すること)とみなされてしまうためです。
4.マンション解約について
娘が相続放棄をして、その後、親や兄弟も順次相続放棄をして、相続人が誰もいない状態になった場合、相続人としては、もはや解約ができないことになります。
というのも、マンションを解約することは、相続財産の処分にあたり、法律上は単純承認とみなされてしまうためです。
法律上の建て前としては、相続財産管理人を選任し、当該管理人が解約をするということになります。
ただ、相続財産管理人の選任には、20~100万円程度の予納金が必要となってしまうという問題があります。
5.連帯保証について
①個人根保証契約の場合
個人根保証契約(一定の範囲の債務を保証する保証契約)である場合は債務者が亡くなると元本が確定します。
個人根保証契約というのは、令和2年4月1日の民法改正により新しくできた規定によるものです。
もし、被相続人の賃貸借契約が令和2年4月以降に締結されたものであれば、相談者の保証契約が個人根保証契約である場合は「極度額」の定めがなければ無効とされるため、「極度額」の定めがあるかどうかにより、個人根保証契約であるかどうかが判断できるといえます。
その場合は、上記のとおり、被相続人が亡くなった時に、元本は確定するため、死亡後の賃料については、請求されないことになります。
②通常の連帯保証
一方、通常の連帯保証であれば、被相続人が亡くなった後も解約がされない限り、膨らんだ家賃について請求される可能性があります。
そのような可能性を排除するためには、相談者としては、娘の相続放棄後に相続人となる親や兄弟に働きかけて、賃貸借契約を解除してもらうことがよいでしょう。
それができない場合は、賃貸人に対し、賃貸人側から解除してもらうよう働きかけてみるとよいでしょう。
(弁護士 山本こずえ)