【質問の要旨】
被相続人:母
相続人:相談者、兄
生前、母に了解を得て車の購入資金や子どもの授業料について預貯金から出金をしている。
これは不正使用にあたるか?
【題名】
母親が了解のもと使った貯金は不正使用になりますか
【ご質問内容】
母親を引き取り介護することになりその際貯金も年金も使ってよいと言われました。車購入のお金や子供の授業料も「お前たちは家を建てて大変だからだしてやるから」との言葉に甘えさせてもらいました。
母の死後兄に使い込みだと責められてます。兄夫婦は子供もいないのに母を見ると言わず、夫の好意でうちに来ることができたことにとても感謝していました。母は認知症ではありません。不正使用にあたるのでしょうか
【ニックネーム】
ひとりぼっち
【回答】
1.本人の同意があるため、不正使用(不法行為)ではない
今回のケースでは、相続人である相談者は、被相続人である母の同意を得た上で、母の生前に、母の預貯金から車の購入費用や子どもの授業料に相当する金額を出金しています。
いわゆる不正使用(法律上は不法行為といいます)とは、被相続人の同意なく勝手に出金していたようなケースや、被相続人から通帳などを本人の生活費の支払いのために預かっていたものの、相続人が自分自身の費用として使い込んでしまったようなケースが典型例となります。
今回のケースでは、母本人の同意があり、母の意思で相談者に贈与したと評価できるため、そもそも不正使用とはいえません。
ただし、母の同意があったことを立証できるかどうか、という点は問題となります。
もし、相手方が不正出金の返還請求をしてきた場合に、母の同意があったことを立証できなければ、出金した金額の2分の1は返還しなければならないということも考えられます。
2.生前贈与は遺産の前渡し(特別受益)と評価される可能性はある
今回のケースのように、車の購入資金や子どもの授業料について、本人の同意があった場合、遺産の前渡し(特別受益)に該当しないかが問題となります。
特別受益とは、相続人の中に、被相続人から生前贈与を受けたり、遺贈を受けたりした者がいた場合に、相続人間の不公平を解消するために、贈与金額等を相続財産に持戻して計算をする制度のことをいいます。
つまり、生前贈与を受けた金額については、既に遺産をもらっているという前提で計算をすることになります。
特別受益にあたるかどうかは、贈与の趣旨や遺産の前渡しと評価できる程度の高額の金額であるかどうかにより判断されます。
今回のケースでは車の購入資金や授業料が問題となっておりますが、いずれも金額が高額であれば、特別受益にあたると判断される可能性はあり、以下のような計算がされることになります。
<具体例>
たとえば、遺産が1000万円、相続人AとBが2分の1ずつ法定相続分があるというケースを考えてみましょう。
被相続人からAに対し、500万円生前贈与されていたという場合は、遺産の金額を1000万円+生前贈与分500万円とみなして、1500万円とします。
その上で、Aについては法定相続分2分の1の750万円から生前贈与分500万円を引いた250万円を取得し、Bは750万円を取得するという計算をします。
3.今後の対応
今後、遺産分割を行う際に、相手方が特別受益の主張をしてきた場合は、
相談者としては、特別受益にはあたらないという主張をしていく必要があります。
具体的には、相談者がこれまで介護を行ってきた対価であるため、贈与ではないという主張や、子どもの授業料については、子どもへの贈与であり、相談者への贈与ではないので特別受益にあたらないという主張が考えられます。
(弁護士 山本こずえ)