【質問の要旨】
家族構成:父87歳(要介護1)、母82歳(検査はしていないが、要支援レベルと感じられる)
長女60歳(無職)、長男57歳(無職)
その他:家族内で相続の話し合いをしない
遺言書の作成もできない
嫁いだものには相続するつもりはない
長男へ相続の意向がうかがわれる
・両親が健在中に、相続がスムーズに進めるよう、前もってできることはあるか。
両親と同居している子と、同居していない子は相続をめぐってよく争いになります。
このような争いを未然に防ぐ方法としては、普通に考えられるのは、両親に遺言書を作成してもらうことです。
ただ、相談者の立場から、両親に遺言書の作成を進めても、質問に記載された状況では、結局は同居の子に有利な内容の遺言書を作成される可能性が高いと思われます。
兄弟姉妹間での話し合いで、将来の遺産分割のルールを決めることも考えられますが、生前の遺産分割の合意は法律的に効力がありません。
又、そのような申し出をすること自体が、同居の子供たちに有利な遺言書が作成されるきっかけを作ることになり、藪蛇になりかねません。
そのため、生前に有効な方策があるかと言えば、現実問題としては良い方策が見つからないというのが実情です。
ただ、今回の質問のようなケースでは、同居の兄弟に有利な遺言書が作成されていることが多く、また多くの場合、生前に預貯金の払い戻しがなされています。
そのため、生前にできることとして、相続開始後の調査に役立つように両親の財産状況をできるだけ把握することを当事務所としては勧めています。
両親健在中に、相続がスムーズに行われるよう、前もってできる事はありますか?(家族内での相談の話はしようとしない)
① 家族内で相続についての話し合いはしようとしてくれない。
② 遺言書などの作成も進められない。
③ 嫁いだ者には、相続はするつもりはない。相続は長男へとした意向が伺われる。
父87才、要介護1
母82才 認知検査はしていないが、日常の様子では、要支援レベルは感じられる。
長男(弟57才)同居中 無職
長女(姉60才)同居中 無職
日常的な生活は、家事全般~介護など、姉弟で協力しあう状況。
【ニックネーム】
植松
【詳細な回答】
第1 相談者のケースでは、将来の相続争いが起きやすい
相談者は結婚をして所帯を持っているので、高齢の両親とは別に暮らしているが、相談者の姉と弟が高齢の両親と同居をしているようです。
さらに、両親の意向としては、嫁いだ者には相続するつもりがない、相続は長男へとした意向がうかがわれるとのことです。
このような状況の下では、高齢者の両親が姉と弟に遺産を譲るといったことが生前贈与の形にしろ、遺言書の形にしろ、起こりうる状況にあると考えられます。
また、高齢の両親の介護と家事全般を、姉や弟が行っている実態から考えて、もうすでに両親の預貯金の出し入れを、姉や弟が替わりに行っている可能性もあるでしょう。
そうすると、知らぬ間に、遺産が目減りしてしまうこということも考えなければなりません。
両親が亡くなってもこのような疑念が残ることから、相談者のケースでは相続の争いが起きやすいといえます。
第2 遺言書の作成が困難であること
このようなもめ事を未然に防ぐ方法として、相談者も指摘するとおり、高齢の両親に遺言書を書いてもらうという方法があります。
遺言書で、不動産は例えば長女に、預貯金はその他の誰々にと明確に書いてもらえれば、残された相続人はそれに従うほかありません。
しかしながら、相談者のケースでは、両親が生前に相続の話をするのを拒んでいること、遺言書の話ができる段階ではないようです。
このような場合には、遺言書の方法をとることはできません。
遺言書は、両親自身に書いてもらうことが、必要だからです。
第3 兄弟姉妹との生前合意は法律の効力がない
このような場合、兄弟姉妹で相続について話し合いをする方法も考えられますが、生前の遺産分割の合意には、法律上の効力がありません。
また、そのような申し出をすること自体が同居の子供たちに警戒感を与えることになり、姉や弟に有利な遺言書の作成がされるきっかけを作ることにもなりかねません。
第4 今できること
そこで、今、相談者にできることとしては、相続開始後の調査に役立つようにできるだけ両親の財産状況を把握することです。
両親の財産状況を把握するために必要な資料としては、以下のようなものがあります。
- 両親が所有する建物の不動産登記簿謄本
- 両親が保有している銀行口座の銀行名、支店名、加入している保険会社の名前、取引がある証券会社の名称等が確認できる資料
両親と同居をしていない相談者の立場で、これらの資料は入手することが困難かもしれませんが、実家に帰った際に等に郵便物をチェックしたり、何気なく聞いてみることが考えられるでしょう。
これらの資料をもとに、両親が亡くなった後、相続人の立場で相続財産の調査を行うことができます。
(弁護士 岡本英樹)