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実例Q&A

100万円の生前贈与、孫への学費援助が特別受益にあたるか【Q&A No.744】

2022年1月28日

【質問の要旨】

・現在、相談者は弟から遺留分減殺請求をされている。

・弟は被相続人(母)の相談者への生活費100万贈与、相談者の子への学費援助を特別受益の主張をされている。

・相続人は相談者と兄、弟の3人

・母は公正証書遺言を残しており、兄に3分の1、相談者に3分の2、弟は0という内容。

・相談者の母(被相続人)は、生前、相談者に生活費100万を贈与してくれた

・被相続人は相談者の子の私立中学の学費(年間60万円程)を援助してくれた

 

 

 

 

【回答の要旨】

特別受益とは、相続人に対する生計の資本としての贈与等をいう

・相談者が失業中に受けた100万円の贈与について、相談者に対する生前贈与は特別受益に該当する可能性がある

・相談者の子への学費援助について、孫の預金口座に送金、あるいは入金されているのであれば、孫に渡したものであり、孫が相続人ではないために、特別受益にはならないということになる

・弟の医学部の教育費用は、条文上では主張できないが、現在、多額の収入があるのだということは調停委員に説明されて、不公平さを訴えられる程度のことはしてもよく、それで調停委員の心情をこちら側にするという手段とされてもいい

 

【題名】

失業中の生活費の支援

【ご質問内容】

私は不当解雇によりかつて裁判を闘っていました。その際、母が私に生活費の足しにしなさいと100万円を贈与してくれました。その後、裁判所より和解勧告がなされ雇用主が今までの給与をすべて支払い私は依願退職をするということで決着しました。この時、私の子(母から見れば孫)は丁度、私立の中学校に通っていて子の学費も母が援助してくれました。年間60万ぐらいです。

今、遺産相続でもめています。相続人は私と兄と弟の三人です。母は公正証書遺言を残していて遺産の分割については兄に三分の一、私に三分の二を残し、弟には遺贈しませんでした。というのも弟は医師で年収5000万ほどあり、医者にするために大学に6年間通わせ、下宿費も送金したのでお前はもうお金は要らないだろうという事だったようです。ところが弟は遺留分減殺請求をしてきており、私の失業中の100万円、私の子への学費の援助を特別受益だと主張しています。

これは特別受益に当たるのでしょうか、ご教示いただけますと幸いです。宜しくお願いします。

(Ryupapa2)


 ※敬称略とさせていただきます。

 

【回答】

第1 特別受益とは

特別受益とは、相続人に対する生計の資本としての贈与等をいいます。(民法903条1項)

上記贈与が特定の相続人になされた場合、共同相続人間では不公平が生じます。また、上記贈与は相続の前渡しと考えられるため、特別受益については遺産に持ち戻して計算し、特別受益を受けた人は、具体的相続分の計算の際に受益分を差し引いて遺産をもらうことになります。

 

第2 相談者が失業中に受けた100万円の贈与について

相談者は相続人ですので、相談者に対する生前贈与は特別受益に該当する可能性があります。

ところで、「生計の資本」というのは、生活費として贈与される場合などが含まれます。

そこで、相談者が失業中にされた100万円の贈与が「生計の資本」としての贈与にあたるか問題となります。

例えば、親が子供の生活費を援助するような場合として、毎月10数万円程度の仕送りをする場合があります。

被相続人の親が子供に長年にわたり、金銭的援助を行っていた事例では、月額10万円を超える部分につき特別受益にあたると判断されました。(東京家審平成21年1月30日家庭裁判月報62巻9号62頁)

この審判例によると、月10万円以内の生活費の援助であれば、特別受益にあたらないということになります。

一方、今回のケースでは、この審判例とは異なり、一括して100万円というそれなりにまとまった金銭を渡していますので、特別受益になる可能性が高いと思われます。

 

第3 相談者の子への学費援助について

すでに述べたとおり、特別受益にあたるというためには、相続人に対する贈与等でなければなりません。

そのため、その贈与が誰に渡されたのかが問題になります。

もし、子の口座に送金、あるいは入金されたのであれば、特別受益になる可能性が高くなります。

しかし、孫の預金口座に送金、あるいは入金されているのであれば、孫に渡したものであり、孫が相続人ではないために、特別受益にはならないということになりそうです。

ただし、例外的に、孫への贈与が相続人である子供への贈与と同視できる事情がある場合は特別受益にあたると判断される可能性があります。

たとえば、特別受益にあたると判断した裁判として次のようなものがあります。

この事例では、相続人が自分の子供に対する扶養義務を怠っている事情があるケースで、被相続人の当該孫への学費や生活費の援助が実質的には当該相続人への贈与と評価されました(神戸家尼崎支審昭和47年12月28日)

今回のケースでは、被相続人は私立中学の学費を援助しています。

仮に、被相続人が学費の大半を継続的に支払っているのであれば、その分、相談者としても学費の支払いを免れているため、学費援助は相続人への贈与と同視できると判断される可能性があると思われます。

 

第4 弟の医学部の教育費用は特別受益にならないか?

(参考までに次の点も付け加えておきます)
通常、子が大学に行った場合、その分、教育費用が余分にかかります。

昔は高校卒業後、就職する人が多かったせいもあり、大学に進学させてもらった人はその分、特別受益があったという主張がよくされていました。

しかし、最近は多くの人が大学に進学するためにそのような主張はしてもあまり考慮されることもなくなっています。

ただ、医学部となると、在学期間も長く、又、私大ということになれば、かなり膨大な教育費がかかります。

そのため、この医学部進学の場合の教育費は特別受益にしないと相続人間での公平さが保てないというケースもありえます。

ただ、令和元年7月1日施行の相続法改正により、相続開始から10年より前の特別受益は遺産持ち戻す必要はなくなりました(末尾の参照条文をご覧ください)。

おそらく本件では弟が医学部に進学していた時は、かなりの昔であり、10年をはるかに超えていることと思いますので、条文上では特別受益は主張できません。

ただ、調停の席上などで、弟は医学部に行って、多額の援助を受け、その結果、現在、多額の収入があるのだということは調停委員に説明されて、不公平さを訴えられる程度のことはしてもよく、それで調停委員の心情をこちら側にするという手段とされてもいいでしょう。

 

【民法 第1044条】

1 贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額 を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年前の日より前にしたものについても、同様とする。

2 第904条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。

3 相続人に対する贈与についての第1項の規定の適用については、同項中「1年」とあるのは「10年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。

(弁護士 大澤龍司)

(弁護士 山本こずえ)

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