【質問の要旨】
・父が亡くなったのは25年前
・父の日記によると、1億7000万円が銀行から振り込まれている
・父の通帳はすでに処分されているので、銀行に取引履歴を見せて欲しい
・弁護士には証拠がないので訴訟できないと言われた
・25年以上前の銀行取引履歴を開示してもらう方法はあるか
【回答の要旨】
1.銀行が取引履歴について照会に応じるのは10年程度
2.今回のケースは銀行相手に訴訟をするにしても時効が完成しているため難しい
3. 相談者としては、相続から10年以内に対応すべきであった
【題名】
25年前亡くなった父の通帳の取引記録を開示請求できないでしょうか
【ご質問内容】
3人兄弟です。私は両親と同居しており見取りました。
最近父の日記を読んでいたら、亡くなる5年ほど前に、掛け捨て生命保険というのに入ったこと、
それも自分の意志でなく入ったようで、なぜ早く死ねば2億円はいるが長生きすれば損をするという保険なんかに・・・と怒ったように書いています。
それでも1億6500万円を銀行に借りたようです。
しかしその2か月後に銀行から自分の通帳に1億7000万円ふりこまれたとあります。
父が亡くなって相続協議の話の時、通帳の1億7000万円はまったく出てきませんでした。
父が亡くなる4年まえくらいから、父の株も通帳もすべて兄があずかっていました。兄も株をしています。
弁護士さんとも相談したのですが、おそらく父が持っていた株を処分し1億6500万円を銀行にかえしたあと、保険を解約したのではないか。
そのお金を兄弟で分けたのではないかと推測されます。父の通帳を見せてほしいと頼んだところ、とっくに捨てたといわれました。
弁護士さんは、エビデンスがないので訴訟できないといいますが、通帳の取引記録はほんとに廃棄されてしまっているのでしょうか。
友人のご主人が銀行の前の会長だったの頼んだのですが、おそらく記録を捨てることはないが自分の力では出せないとのことでした。
お返事お待ちしております。
(マルコ)
※敬称略とさせていただきます。
【回答】
1.金融機関の取引履歴が保管されるのは10年程度
今回の相談では、25年前に亡くなった相談者父の取引履歴を銀行に照会(開示)できないか問題となっています。
通常、取引履歴の照会をかけたとしても、金融機関が回答してくるのは照会時点から10年程前までの記録です。
2.金融機関は最低でも20年間は関係資料を保管しているはず。
銀行としては、10年以前でも、取引履歴や払戻伝票は保存している可能性は高いです。
なぜなら、金融機関で何かで問題が起きた場合、問題となる行為から20年間(民法上の不法行為の消滅時効が行為から20年です)は責任追及される可能性があります。
そのため、銀行としてはその期間内は、自分の身を守るために取引履歴や払戻伝票などの証拠となる書類を廃棄できないからです。
ただ、実際は手元にあるとしても、10年以上経過した場合の取引履歴の開示に応じるかどうかは、銀行によって対応が異なります。
開示に応じてくれる銀行は少ないのが現実です。
3.10年以上前の取引履歴を開示させる手段
金融機関側が取引履歴を保管しているにもかかわらず、10年以上も前の取引履歴照会に回答させるためにはどのような手段があるのか問題となります。
今回のケースで考えられる手段としては、銀行の対応に問題(例えば本人確認をきちんとしていなかったような場合が考えられます)があるのであれば、不法行為に基づく損害賠償請求と法律構成をして、1億7000万円の請求訴訟を提起することです。
銀行側としては、責任追及を免れるため、1億7000万円を取り込んでいない証拠として、取引履歴や関係証拠としてだしてくるはずです。
もっとも、今回のケースでは、父が亡くなってから25年以上経過していることから、不法行為については、時効が完成しています。
そのため、訴訟提起をしたとしても、時効が完成しているとして取引履歴は出てこないでしょう。
4.まとめ
以上からしますと、相談者としては、金融機関から取引履歴を開示してもらう手段はないということになります。
残念ではありますが、父の相続からせめて10年以内に対応できればよかったケースであるといえます。
(弁護士大澤龍司、弁護士山本こずえ)