【質問の要旨】
・相談者の夫には、前妻との間に子が2人、相談者との間に2人いる。
・2年前に公正証書遺言で、4人の子へ不動産の相続を配分。
・夫死亡時、預金等の引出しにおいて子供全員の印鑑が必要になるのではないか?いざという時、生活費に困ることになるのではないか?
【回答の要旨】
・公正証書遺言に預金を妻に相続させるとの記載があれば、子ども全員の印鑑がなくても金融機関は応じてくれる
・遺言書の有効性が争われる場合には、すぐに解約できないことがある
・全部の支払いに応じなかったとしても、法定相続分の3分の1までなら払い戻しが可能
【題名】
夫の死亡時の財産について
【ご質問内容】
お世話になります。
夫は高齢で、前妻との間に二人の子供(成人)がおります。
現在私にも二人の子供(小学生)がおります。
二年前に遺産で争わないようにと、公正証書遺言を作ってくれました。
四人の子供全員にそれぞれに不動産が渡るように、とにかく争いがおきないように・・とそれは有難く感じています。
が、いざ亡くなったとき、預金など、子供全員の印がないと現金もおろせないと聞いたことがあります。
私は専業主婦で金銭については一切夫が仕切っているので、いざという時、生活費に困ってしまうのではないか・・・
前妻の子供さんたちとは行き来がなく、夫とあまりいい関係ではないかと思います。
なので、揉めてしまうのではないかと今から悩んでいます。
夫は喜怒哀楽が激しいので、こちらからそれについて相談することもできずにいます。
宜しくお願い致します。
(もも)
※敬称略とさせていただきます。
【回答】
【公正証書遺言に預金を妻に相続させるとの記載があれば、子ども全員の印鑑がなくても金融機関は応じてくれる】
今回のケースでは、相談者の夫は公正証書遺言を作成しています。
この夫の作成した公正証書遺言に、《相談者である妻に預金を相続させる》との記載があれば、金融機関としては、原則として妻の預金の払戻し手続に応じます。
公正証書遺言の場合には、自筆証書遺言と異なり、家庭裁判所で「検認」手続きは不要です。
解約の手続きとしては、最低限、公正証書遺言と被相続人の戸籍謄本等が必要です。
その他にどのような書類が必要かは当該金融機関に事前に確認されるといいでしょう。
公正証書遺言で指定されている遺言執行者がいる場合、解約・払戻しの手続はこの執行者が行うことになります。
【遺言書の有効性が争われる場合には、すぐに解約できないことがある】
遺言者に遺言を作成する能力がなかったなどを理由に、遺言書の有効性に争いが生じる場合があります。
このような場合に、予め無効を主張する人が金融機関に対し、「解約に応じるな」との申し入れするケースがあります。
そのような場合、金融機関が解約に応じてくれないこともあります。
当事者間の話し合いで解決できればいいですが、なかなか円満な話し合いができない場合も多いのです。
できれば、早期に相続に詳しい弁護士に相談されることをお勧めします。
【全部の支払いに応じなかったとしても、法定相続分の3分の1までなら払い戻しが可能】
相続法改正(2019年7月1日に施行)で、単独である程度の預金の支払ってもらえることになりました。
遺言書がなく、遺産分割も終わっていない場合でも、法定相続分の3分の1までの金額であれば、単独で被相続人の預金払い戻しができるという条文が新設されました。
但し、この支払い額は、上限は各金融機関につき150万円までです。
つまり、法定相続分の3分の1の金額が150万円より多い場合は、150万円が上限となります。
これは各金融機関ごとの上限ですので、3つの異なる金融機関に預貯金があれば、最大で450万円まで支払いをしてもらえます。
なお、その際にどのような書類が必要なのか、予め当該金融機関に確認されるといいでしょう。
(弁護士 山本こずえ)