遺産相続人が3人おり
相続人AとBは亡くなった父に対し
①生前は病院の送迎や施設の申込み
②亡くなった時は葬儀やお墓対応
③残った空家における庭木の剪定や草むしりなどを時には会社を休んで対応したが、相続人Cは告別式に出席しただけで財産を3人で等分と権利だけを主張する。相続人A.Bは①②③の人件費やガソリン代、③は業者に頼んだ場合の金額を預貯金から差引くことはできないでしょうか?
義務をはたさず権利ばかりの主張では、あまりに不公平ではないでしょうか?何か良いアドバイスをいただけたら幸甚に存じます。
【ニックネーム】
シム
【回答】
1.人件費を寄与分として差し引くことができるか?
今回のケースでは、相談者らは、①生前の病院の送迎・施設申し込み②葬儀・お墓の対応③空き家の管理等行っていました。
まず、相談者らが①~③の対応をしたときの手間や労力を人件費として相続財産から差し引き、相談者らがもらうことができないかが問題となります。
民法は、被相続人の財産を増加させたり、減少を食い止めた人に遺産から財産を与えるために「寄与分」という制度を定めています。
「寄与分」として差し引くには、
(i)財産の維持・増加に貢献していること
(ii)子の親に対する通常期待される程度を超えた特別の寄与であることが必要です。
一般的には、①~③の相談者らの行為については、亡くなった人の財産の減少を防ぐことにつながる面はあるものの、子として通常期待される程度を超えているものであるということを主張していくことは難しいでしょう。
ただ、たとえば、①~③について、本来であれば多額の金額がかかるはずであるが、相談者らの行為によって、費用がかからずに済んだということであれば、その部分が寄与分にあたるということができそうです。
寄与分にあたらない場合は、以下の2~4のとおり、遺産から金銭をもらうことが難しいということになります。
2.生前の病院の送迎・施設申込みについて
まず、亡くなった人の病院の施設利用料については、亡くなった人の債務になるため、相続財産からは差し引かれることになります。
しかし、相続人が施設への送迎や申込みの手続等を行っていたとしても、人件費やガソリン代については、預貯金から差し引くことはできません。
これらの費用は、亡くなった人の債務ではなく、相続財産から差し引くための根拠がないためです。
3.葬儀やお墓の対応について
亡くなった人の葬儀費用については、亡くなった後にかかる費用であるため、相続財産から差し引く債務にはあたりません。
実務上は、葬儀費用については、喪主が負担をするか、葬儀に出席した相続人で負担するというケースが多いです。
また、お墓の対応について、かかった費用があるとしても、やはり被相続人が亡くなった後に発生した債務なので、相続財産から差し引く根拠がありません。
葬儀やお墓の対応についての人件費等についても、前述のとおり、相続財産から勝手に差し引くことはできません。
4.空き家の管理について
亡くなった人の生前に、相談者らが空き家の庭木の剪定等を行った場合、本来は亡くなった人が支出すべき業者への費用を支出せずに済んだという側面があるため、寄与分にあたらないか問題となります。
しかし、前述のとおり、寄与分といえるためには、一般的には通常、子として期待されている程度を超えた特別な寄与であることが必要であるため、寄与分の主張は難しいでしょう。
一方、亡くなった後で、相談者らが空き家の庭木の剪定等を行ったのであれば、亡くなった人の財産を維持・増加させる行為ではないということになるため、預貯金から差し引くことはできないということになります。
5.まとめ
今回のケースについては、いずれも相続人自身の人件費等が問題となっています。
法的にみると、このような費用を相続財産から差し引くことは難しいと考えられます。
ただし、相続人間の話し合いにおいては、相続人が施設送迎等の対応をしていたことや葬儀関係の対応、空き家の管理等を行っていたことについて、交渉材料として、その分の費用を相続財産から差し引いたうえで、残った財産を相続人間で分けるように交渉をすることは十分に考えられます。
(弁護士 山本こずえ)