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実例Q&A

会社が遺言は無効と判断して株主名簿の書換を拒絶したときの対処法【Q&A804】

2023年2月8日

【質問の要旨】

被相続人:母

相続人:相談者・姉

相続財産:非上場株式、譲渡制限株式

その他:遺言書には全ての財産を相談者に相続させると記載(家裁検認済み、遺言執行者は相談者)

経緯

①会社に対して相談者への株主名義変更を請求したが、

 姉から会社に対して、遺言に疑義があると主張されたとのことだった。

②主張を受け、会社は疑義の内容及びそれを裏付ける客観的資料の提出を姉に求めた。

③姉は母が認知症である、という病院の診断書を提出した。

 (実際は時々物忘れがあるが、意思能力はあった)

④会社は診断書を確認し、相談者の請求(遺言による株主名義変更)を拒否した。

→遺言書が無効かどうかは裁判所が判断するものではないか?

 裁判所の判断でなく、会社の判断で株主名義変更を拒否するのはおかしいのではないか?

 

【回答】          

1 認知症でも遺言能力ありと判断されることがある

 遺言能力とは、遺言当時、被相続人が遺言の内容を理解できる能力を指します。

 遺言能力の有無は、遺言内容、遺言書作成時の状況、精神疾患の種類(例えば、アルツハイマー型認知症)、重症度等を総合考慮して判断されます。

 例えば「全財産を長男に相続させる」という簡単なものである場合には、遺言内容を理解するために必要な認知能力は、ある程度低いものでも足ります。

 また、認知症と一口に言っても、その重症度は様々です。

 そのため、遺言当時認知症であっても、遺言能力があり、遺言書は有効と判断されることもあります。

2 遺言の有効性を終局的に判断するのは裁判所

 遺言の有効性を終局的に判断するのは裁判所になります。

 遺言書が存在するのであれば、当該遺言が無効であることが明白である場合(例えば、遺言に方式違反がある場合)を除き、遺言書が有効であることを前提に遺言執行がなされることになります。

 会社が勝手に遺言が無効であると判断することはできません。

 会社は単に、遺言の有効性についての判断を留保し、遺言が有効であることの証明資料がない限り、名義書き換えを拒んでいるのかもしれませんが、遺言が無効であることの証明資料がない限り、遺言は有効であるものとして事務処理をする必要があります。

3 会社に文書を送り交渉する方策

 本件事案で、会社は、「認知症=遺言は無効」と単純に判断している可能性があります。

 そこで、まずはこの認識を正すために、上記1に記載したことを伝えるのがよいと思われます。

 また、遺言が無効であると裁判所が判断しないうちは、原則、遺言は有効であるものとして扱われることも伝えるのがよいでしょう。

 内容が高度になるため、交渉は弁護士に依頼するのがよいでしょう。

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