【質問の要旨】
・父親が他界し、母・子3人で財産分与の協議中。相談者は次男。法定相続分に沿った分配になる見込み。
・母が将来亡くなったとき、兄がすべて相続するという案が出ている。
・上記の案に同意すると、将来自分の遺留分請求権が失われるか?
【回答の要旨】
・亡くなった父の遺産分割協議書に、将来の母の相続について書く必要はありません
・生前の分割協議は無効
・母が長男に全財産を相続させる旨の遺言書を作成することに現段階で同意したとしても、遺留分を放棄したことにはなりません
・母の遺留分を放棄しない場合、母が亡くなった後、早急に遺留分侵害額請求をする必要があります。
【ご質問内容】
先日、父が他界し、土地等の財産分与につき、母、子3人で協議しています(質問者は次男です)。遺言はなかったため、財産は法定相続分に沿った形に分けられる見込みです(母1/2, 子1/6)。
しかし、母も高齢のため、母が亡くなった場合における財産分与も考える必要があるところ、予め(最終的には遺言により明確化の予定)兄が全て引き継ぐことに、現段階で私が同意してしまうと、自動的に、母が亡くなった場合における遺留分請求権を失うことになるのでしょうか。また、それを防ぎたい場合には、今の財産分与の協議書において「将来の遺留分請求権行使を妨げるものではない」との一文を追加しておく必要があるのでしょうか。
(とも)
※敬称略とさせていただきます。
【回答】
【亡くなった父の遺産分割協議書で、母の将来の相続について、遺留分侵害額請求権を放棄しない旨記載する必要はなく、仮に記載してもその効力はありません。】
1 亡くなった父の遺産分割協議書に、将来の母の相続について書く必要はありません
遺産分割協議書は、亡くなった人の遺産をどのように分けるか記載するものです。
そのため、亡くなられた父の遺産分割協議では、父の遺産の分割方法を書けばよく、それ以外の内容を記載する必要はありません。
2 生前の分割協議は無効
相談者の母はまだご健在あるので、まだ発生していない相続について、亡くなった父の遺産分割協議書の中で書く必要はありません。
また、書いたとしても、現実に相続が発生する前になされた遺産分割協議は無効になります。
母の相続については、母が遺言書を作成するか、将来相続が発生したときに相続人間で遺産分割をすることで対処すべきであり、質問のような状況で母の遺産分割に関する記載をしても、その効力はありません。
3 母が長男に全財産を相続させる旨の遺言書を作成することに現段階で同意したとしても、遺留分を放棄したことにはなりません
現段階で母が長男に全財産を相続させる遺言書を作成することに同意したとしても、それは母がそのような遺言書を作成するに反対しなかったというだけであり、あなたが母の死亡後にする遺留分請求をできなくするような効力は生じません。
参考までに言えば、生前に遺留分放棄をすることはみとめられていますが、そのためには家裁の許可が必要です。(民法1049条)。
法律的には、以上のようになりますので、「将来の遺留分請求権行使を妨げるものではない」と記載する必要もありません。
4 母の遺留分を放棄しない場合、母が亡くなった後、早急に遺留分侵害額請求をする必要があります。
母が亡くなった後、遺留分侵害額請求権を行使したい場合、早急に長男に対して遺留分侵害額請求権を行使する意思表示が必要です。
遺留分侵害額請求は自己の遺留分が侵害されていることを知ったときから1年間しか行使することができません。(民法1048条)
あなたは母が長男に全財産を相続させる遺言をしていることを知っているので、母が亡くなった時から遺留分の侵害を知っていることになります。
そのため、母が亡くなったときは、早急に長男に対して遺留分侵害額請求権を行使する意思表示をする必要があります。
その際、遺留分侵害額請求権の意思表示は内容証明郵便などで行い、書面の形で残しておくことをお勧めします。
(弁護士 山本こずえ)