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実例Q&A

口座開設時の書類の開示【Q&A797】

2022年12月9日

【質問の要旨】

被相続人:父

相続人:母、兄、相談者

その他:・母と父は同居していた。 兄と相談者はそれぞれ別々の場所に住んでいる。

     ・父の遺産に関して不明瞭な口座開設がされており、お金の行方も分からない為遺産範囲の確定ができない。

経緯:

①父が亡くなる約約半年前に兄の住所に近い金融機関の支店Aに父名義の口座が開設されていた。

②Aの口座開設の翌日に、父名義の他の金融機関Bから多額のお金が1回、A口座に送金があった。

③送金された同日にA口座の残高がゼロになっていた。

※病気療養中に父が一連の手続きをすることは考えにくい為、兄が仮申込し母が父に内緒で必要書類の郵送を受取り、

 母が書類を作成し本人確認書類の写しを添えたのではないかと疑っている。

④銀行に問合せたところ、口座開設経緯に関する書類の開示は、弁護士等代理人を通しても全ての相続人が同意の上、揃って支店に来店した上でしか開示しないと回答された。

 母や兄は全ての父名義の通帳も開示せず、相続税申告期限を過ぎても開示しない。

 

・単独で相続人として、被相続人の口座開設の経緯を開示請求することはできないのか。

・消えたお金を追跡する方法はあるか。

 

 

 

 

1.口座開設時の書類を取得することは難しい

金融機関には、口座開設時の書類について、相続人単独の開示請求に対して、応じなければならない法律上の義務はありません。

そのため、亡くなった人の口座開設時の書類を開示してくれるかどうかは、金融機関によって、扱いが異なります。

ご相談のケースのように、「相続人全員の同意がなければ開示をしません」という扱いの金融機関については、仮に、相談者が弁護士に依頼をしたとしても、強制的に開示させるということは難しい可能性もあります。

2.引き出された金銭の追跡

今回のケースでは、亡くなったお父さんのA金融機関の口座に、お父さん名義の他の金融機関の口座から送金がされて、同日に引き出しがされています。

ア 窓口出金の場合

もし、窓口で出金されている場合、出金伝票の開示請求をすることが考えられます。

出金伝票には、窓口に来た人の筆跡が残っているはずなので、兄の筆跡と見比べることは可能です。

ただし、筆跡が同一かどうかは、専門家の鑑定でも判断が難しい事柄です。

さらに、仮に、兄が引き出したとして、窓口で引き出された金銭がその後、どこへ行ったのかは直接追跡することができません。

イ ATM出金の場合

ATM出金の場合、金融機関に対し、どこのATMで引き出されているか問い合わせをすることが考えられます。

父が施設に入所している間に、兄の自宅付近のATMで引き出されているのであれば、兄が引き出した可能性が高いと考えることができます。

ただ、兄がATMで引き出した後の使い道については、窓口出金の場合と同様、直接的に追跡することはできません。

被相続人は父、相続人は母、兄、私です。母は父と同居していました。兄と私はそれぞれ別々の住所になります。

父は3年弱病気療養の上、亡くなりました。

父の亡くなる約半年前に、兄の住所に近い金融機関の支店(Aとします)に父名義の口座が開設されていたようです。(父の住所に近い支店ではありません)

取引履歴で判明した内容は、口座開設の翌日に、父名義の他の金融機関(B)から多額のお金が1回、A口座に送金され、送金された同日に残高がゼロとなっていました。

A金融機関に問い合わせしたところ、口座開設方法は、本人が支店に行き窓口で手続きをする方法と、A金融機関ホームページから口座開設の仮申込をし、開設に必要な書類が郵送され本人記入後返送し口座開設、と2つあるようです。

しかし、病気療養中に本人が自宅最寄り支店より遠い支店に出向いて口座開設手続きをすることや、パソコンやスマートフォンが使えない父がWi-Fiのない自宅でインターネットから仮申込は想定しづらく、兄が仮申込し母が父に内緒で必要書類の郵送を受取り、母が書類を作成し本人確認書類の写しを添えることは可能なのでは、と疑っています。

そして、私は父本人の自署で当該口座を開設したかどうか確認したく、私はA金融機関に対し、父が口座開設した際の書類一式の開示を求めましたが、A金融機関は、私が単独で相続人として残高証明書や取引履歴は取得することはできるが、口座開設経緯に関する書類の開示は、全ての相続人が同意の上揃って支店に来店した上でしか開示しないとの回答でした。(私が弁護士等代理人を通じて開示請求をしても同様に応じないとのことでした)

このため、消えたお金がどこへ行ったのか分からず、遺産範囲の確定もできません。またこれまで母や兄は全ての父名義の通帳も開示せず、さらに相続税申告期限を過ぎても開示しませんでした。

単独で相続人として、被相続人の口座開設の経緯を開示請求することはできないのでしょうか。

また、消えたお金を追跡する方法はありますか。

よろしくお願いいたします。

【ニックネーム】

 ろー

 

【詳細な回答】

1.口座の取引履歴の判例

亡くなった人の口座の取引履歴については、相続人が単独で開示請求をすることができるという最高裁の判例(平成21年1月22日判決)があります。

この判例により、少なくとも10年分の預金取引履歴については相続人が単独で開示請求できるというのが実務上の取り扱いです。

もっとも、金融機関は10年以上前の取引履歴についても、保管していることが多いです。

そのような10年以上前の取引履歴を開示するかどうかは金融機関の自由であり、金融機関ごとに扱いが異なるというのが実情です。

 

2.口座開設時の書類について

口座開設時の書類のように、預金の取引履歴以外の情報については、上記のような判例はありません。

そのため、金融機関によって扱いが異なります。

今回ご相談のケースでは、「相続人全員の同意が必要」として、開示を拒否されています。

このようなケースでは、弁護士に依頼をしても、同様の回答がされる可能性があります。

 

3.金銭の行方について

ア 窓口出金の場合

金融機関の窓口で金銭を引き出している場合、出金伝票を取り寄せることが考えられます。

出金伝票には、窓口で出金した人の筆跡が残っているはずなので、今回のケースであれば、父の筆跡であるか、兄の筆跡であるか比べてみることが考えられます。

ただ、筆跡が同一であるかどうかの判断はかなり難しく、筆跡鑑定をしたとしても、兄の筆跡であることを立証することは難しい可能性があります。

イ ATM出金の場合

ATMから出金されている場合、どこのATMから出金されているのか金融機関に問い合わせることが考えられます。

もし、父が施設に入っている期間中に、兄の自宅付近のATMから出金されているということであれば、兄が出金した可能性が高いということになります。

ウ 出金された金銭の行方

窓口出金とATM出金のいずれの場合であっても、引き出された金銭がどこへ行ったのか直接追跡することは難しいでしょう。

もし、同日か近い日に兄が引き出した金銭と同額の不動産を購入している等の事情があれば、引き出した金銭を不動産の購入資金に充てたと推測をすることができます。

 

4.訴訟や調停の手続について

今回のケースで、もし、兄が父の生前に、父の意思に反して預金を引き出し、自分のために使い込んでいるということであれば、父は兄に対して損害賠償請求権を持っていることになります。

ただ、既に述べたように、兄が預金を引き出したのか、引き出したとして、何に使ったのか現段階で客観的な証拠を揃えて、はっきりさせることは難しいでしょう。

そこで、相談者としては、弁護士へ依頼し、使途不明金がいくらあるのか調査をして、相手方との交渉をすることが考えられます。

もし、相手方との交渉でうまく解決できない場合は、訴訟を提起することも考えられます。

また、訴訟以外にも、遺産分割調停の中で解決するという方法もあります。

相談者としては、このような裁判所を利用した手続の中で、相手方に預金の引き出しについて説明を求めるしかないものと考えられます。

(弁護士 山本こずえ)

 

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