【ご質問内容】
高齢の母親と同居中の妹が所謂『囲い込み』をしています。長男である自分に相続放棄するよう記した遺書があるようですが、自分としては相続に際し、遺留分請求、場合によっては遺留分侵害額請求するつもりです。ついては、遺言執行者がいなかった場合、妹が遺言執行者で母の他界を自分に知らせない場合、あるいは役所や警察から母の死亡通知が自分に届かなかった場合、私は相続発生を知らず、遺留分請求権あるいは遺留分侵害額請求権を行使する期限が過ぎてしまうことがあり得るので、これを防ぐ方法をご教示頂けますと幸いです。 母の住民票から死亡の事実を確認することも可能でしょうが、これを頻繁に行うことはしたくありません。
【ニックネーム】
ターザン
【回答】
1, 遺留分侵害額請求の消滅時効の防ぎ方
①住民票の取得はやはり必要となってしまう
今回のケースでは、相談者の母が全財産を妹に相続させる内容の遺言書を作成している可能性があり、いわゆる”囲い込み”をしているため、どのように死亡したことを把握するか問題となります。
結論的には、相談者のご指摘のとおり、住民票の取得をすることになりますが、遺留分侵害額請求権の消滅時効の観点からは、頻繁に行う必要がありません。
②死亡の事実を知らない場合、10年経過しなければ時効消滅しない
遺留分侵害額請求権は次の㋐㋑を知ってから1年以内に行使しなければ、時効消滅していまいます。
㋐被相続人が亡くなり、相続が開始したこと
㋑遺留分を侵害する贈与や遺贈等があったこと
ただし、被相続人が亡くなったことを知らないまま時間が経過しているという場合は、相続開始から10年経過しなければ、遺留分侵害額請求権は消滅しません。
したがって、相談者としては、2,3年に1回程度、母の住民票を確認していれば、いずれは死亡した事実を知ることになり、その時点で遺言書の内容を調べれば遺留分侵害額請求権が時効消滅することは防げるでしょう。
2, 遺言書の調査等について
亡くなった人が公正証書遺言を作成していた場合、公証役場で遺言検索をすることができます。
また、自筆証書遺言の場合でも、自筆証書遺言保管制度を利用していれば、法務局で内容を確認することができます。
一方、自筆証書遺言を作成しており、前記保管制度を利用していない場合であっても、”検認”という遺言書の内容を確認する手続が必要であり、相続人全員に通知がされるため、遺言書の内容を確認できます。
遺言書の内容を確認した結果、妹が全て取得する内容であるか、相談者の遺留分(全体の財産の4分の1)を侵害するようであれば、妹に対し、遺留分侵害額請求をする必要があります。
なお、母が遺言書に相談者が「相続放棄するように」と記載していても、相談者自身が母の死亡後に相続放棄をしない限り、相続放棄をしたことにはなりません。
3, 妹が遺言執行者に指定されており、遺言書の内容(妹が全て相続する等)を相談者に通知せずに執行している場合
遺言執行者には、相続人全員に対し、遺言執行者に就任したことを通知し、遺言の内容や遺産の内容を通知する義務があります。
相談者としては、遺言執行者の前記義務違反によって損害を受けた場合は、遺留分侵害額請求とは別に、損害賠償請求をすることも考えられます。
ただし、遺留分侵害額請求権が時効消滅をしていないのであれば、前記義務違反により直ちに損害を被ったといえない可能性もあります。
その場合、相談者としては、遺留分侵害額請求をする際に、遺言執行者の義務違反により損害を被っていることを指摘するとよいでしょう。
(弁護士 山本こずえ)