【質問の要旨】
・兄が死亡
・兄には離婚した妻、長女、長男がいる。
・兄が生前、死亡保険金の受取人を元妻から変更しようとしたが変更ができなかった。
(国民健康保険の滞納により生命保険を差し押さえられていたため)
・生命保険はまだ差し押さえられているようだが、死亡保険金の受取人を長女に変更することは可能か。
【回答の要旨】
・被保険者死亡後の死亡保険金の受取人の変更はできない。
・死亡保険金の受取人の変更を命じる裁判はできないが、保険会社に対する損害賠償請求ができる場合もある。
・死亡保険金が遺留分の算定で考慮されることがある。
先日、兄がなくなりました。
兄には離婚した妻、長女、長男がおります。
生前、死亡保険金の受け取り人が元妻だったため、変更しようとしたのですが、国民健康保険の滞納により、生命保険を差押えられていたため、変更が出来なかったそうです。
受け取り人が元妻のままだと相続税もかかるので、本人の変更の意思もありましたので、受け取り人を変更できたらと思いますが、まだ、生命保険も差押えられているようですし、亡くなってしまったので、死亡保険金の受け取り人を長女に変更と言うのは無理なのでしょうか?
よろしくお願いいたします。
【ニックネーム】
IKEYU
【回答】
1 被保険者死亡後の受取人の変更はできません
生命保険の保険契約者が兄、被保険者も兄だが、受取人が前妻であるという前提で、解説します。
死亡保険金の受取人の変更は、被保険者が生きている間には、通常、保険契約者が行うことができます。
しかし、死亡保険金は、被保険者が死亡した事実によって、保険会社の受取人に対する保険金支払債務が確定するため、その後に、受取人を変更することはできません。
本件のように、生命保険が差し押さえられて、何らかの理由により、被保険者が生前に受取人を変更しようとしたが、変更できなかった場合についても、同様です。
質問中には、本人の変更の意思もありと書かれていますが、すでに被保険者が死亡している以上、兄はもとより、受取人である前妻の意思によっても、変更をすることはできません。
2 裁判で争ったら変更は可能か?
本来、差し押さえにより保険会社が負う義務は、債権者への弁済の禁止です。
生命保険に対する差し押さえの多くは、保険契約者に対する解約返戻金の支払い禁止であると考えられます。
しかるに、保険会社が保険契約者の申し出にもかかわらず、差し押さえを受けた場合に受取人の変更を認めないことは、約款にそのような規定がなければ、できないのではないかという問題があります。
仮に、約款にそのような規定がないにもかかわらず、保険会社が受取人の変更について拒否をしたのであれば、保険会社のそのような拒否は、保険契約上の債務不履行にあたるのではないかと思われます。
その場合には、受取人の変更を命じる裁判はできないでしょうが、保険会社に対する損害賠償請求ができるかもしれません。
兄が、生前に保険会社に対して受取人の変更を申し出たが、断られたという証拠が存在し、かつ、約款に差し押さえを受けたときに、受取人の変更を禁止する規定がない場合には、本件を訴訟で争えないかどうかについて、法律相談をされるとよいでしょう。
3 死亡保険金が遺留分の算定で考慮されることがある
本件で、受取人の変更ができない場合、死亡保険金は前妻に支払われることになるでしょう。
相続法の世界では、死亡保険金は遺産には含まれず、受取人の財産として位置づけられています。
したがって、本来は、遺留分の計算にも考慮されることはありません。
しかし、被相続人の遺産に占める死亡保険金の額が桁外れに大きいなど、例外的な場合には、遺留分の計算においても考慮されます。
本件で、前妻が受け取ることになる保険金の金額が桁外れに大きい場合には、兄の相続人から前妻に対して、遺留分侵害額請求をすることができる可能性があります。
(弁護士 岡本英樹)