この度は、ご質問の回答が遅れてしまい、ご迷惑をおかけして大変申し訳ございません。
また、ご記入いただきましたメールアドレスがエラーで返ってきたため、大変恐れ入りますがブログでの回答をもって返信とさせていただきます。
【質問の要旨】
・息子から白紙に署名捺印を要求され、深く考えず署名捺印をした
・何のために必要だったのかも聞かなかったが、悪用されるのではないかと今更ながらとても不安になっている
・主人の職場は息子に、住まいは娘に、と以前から口頭で伝えている
・署名捺印を要求したことを息子は主人に、そんなことはしていないと言って認めていない
・このような時、どんな対処が必要なのか
【回答の要旨】
・遺言書が偽造される可能性があります
・贈与契約書などの偽造に使われる可能性もあります
・白紙委任状に利用される可能性もあります
・白紙に署名捺印されたという事実を明らかにしておく
・手書きで署名捺印されたという事実を記載して残しておく
【題名】
白紙署名捺印
【ご質問内容】
息子にある日突然に白紙に署名捺印を要求されて深く考えないで、署名捺印して渡してしまいました。
後から其れが何の為に必要なのかも聴かなかったのです。悪用されるのでは無いかと今更ながらとても不安でなりません。
主人の仕事場はその息子に住まいの家は娘にと以前から口頭では伝えて居ります。
この署名捺印は息子が後から主人にその様な事は無かったと言い張って認めませんでした。
それで此の先どの様な事が起こるのか不安でなりません。
この様な時どの様な対処が必要なのかどうぞお導きお願い申し上げます。
(つぶら)
※敬称略とさせていただきます。
【回答】
※今回の相談は、白紙に署名捺印をしてしまった場合にどのような悪用可能性があるかということと、その可能性についての対処方法についてです。
厳密にいえば、相続についての相談ではありませんが、遺言書の偽造など、相続に絡んだ問題も含まれているのでブログで回答致します。
第1 悪用の仕方は次の3つです。
1 遺言書が偽造される可能性があります。
あなたの息子さんが、もしもあなたの署名・捺印を悪用するとすれば、例えば、あなたの遺言書を偽造することが考えられます。
あなたの署名・捺印した用紙に、遺言書という表題と本文を息子さんが記載する、その可能性があります。
署名部分とその他の部分の筆跡が異なるということになります。
2 贈与契約書などの偽造に使われる可能性もあります。
遺言書以外であなたの署名・捺印を悪用するとすれば、例えば、贈与契約書などの偽造に使うということも考えられます。
これについては、生前であれば偽造したことがばれてしまうので、やはりあなたの相続が発生した後で、
実は生前贈与でもらっていたというような形で使われる可能性があるものと思われます。
ただし、贈与契約書を偽造したとしても、贈与に基づいて所有権移転登記をするという場合は、
別途実印の押印や印鑑証明書などが必要となってきますので、移転登記までは難しいと思われます。
3 白紙委任状に利用される可能性もあります。
委任者の署名・捺印だけがされて、委任事項欄や受任者が空欄となっている委任状のことを白紙委任状といいます。
仮に、あなたの署名・捺印を、あなたの生前に悪用するとすれば、このような白紙委任状の偽造に使うことが考えられます。
息子さん側としては、たとえば、白紙委任状を偽造して不動産などを売却することが考えられますが、やはりその場合も、
上記贈与契約の偽造と同様に、登記の段階であなたの実印や印鑑証明書が必要となってきます。
第2 対処方法
1 白紙に署名捺印されたという事実を明らかにしておく。
悪用の方法としては、前記の3つが主に考えられますが、これらの悪用を防ぐための手段としては、あなた自身が公証役場へ行き、息子さんに要求されて白紙に署名捺印したという事実経過を記載してもらうという方法があります。
このとき、あなたとしては息子さんから言われて白紙に署名捺印した経緯などの事実をできるだけ具体的に公証人に話して、公正証書に記載してもらうことが大切です(このような文書は確定日付といわれています。作成費用は作成にかかる公証人の時間により異なりますが、およそ1~2万円程度の費用を想定しておけばよいでしょう。
このような公正証書の作成により、少なくともあなたが白紙に署名捺印をさせられたという(ことをあなたが主張している)という事実は明かになります。
あなたが死亡した後であっても、そのような書類が残されていると、たとえば遺言書が偽造だと主張する立場の人の証拠として役立つでしょう。
2.手書きで署名捺印されたという事実を記載して残しておく。
仮に文書が偽造された場合、その偽造を明らかにするには、間違いなくあなたが作成した文書が必要になります。
偽造された文書とあなたの真筆とを比較対照して初めて偽造ということが判明します。
そうすると、あなたの作成したことが間違いない文書を残すことが必要不可欠です。
次に、偽造される可能性の高い文書が遺言書であれば、あなたの真筆の中に遺言書をいう文字を記載する必要があります。
同じ文字でないと比較対照ができないからです。
なお、贈与の可能性が高いのなら贈与という文字を、売買の可能性が高いのであれば売買という文字をあなたの真筆で残しておく必要があります。
もし、何に使われるかわからないというのなら、例えば白紙に署名捺印をさせられたと記載した後に、《この白紙の用紙を使って、息子が贈与や売買か遺言書などを偽造するかと不安でしょうがないです》などと、3つの文言を同時に記載しておくといいでしょう。
(弁護士 山本こずえ)