【質問の要旨】
・相続人中に被相続人から生前借り入れをしている相続人Aがいる。
・相続人Aは上記借入について弁済未了である。
・その際借用書を数枚にわたって作成、1枚だけ借入日の記載のないものがある
・被相続人は借入日から6年目に意識不明となり、その7年後に亡くなった
・Aは借入以降も度々不定期に10~40万円ほどの振込をしてもらっている
・振込先の口座がAの口座宛と、Aの配偶者の口座宛と混在している
①この借入金は特別受益として認められる可能性はないか。
②調停に持ち込む価値はあるか
【回答の要旨】
・被相続人からの生前の借入れについては、弁済が予定されている以上、仮に無利息であったとしても、特別受益にはあたらない。
・被相続人がAに対して生計の資本として贈与したものである場合、特別受益ということになるが、配偶者に振り込まれている部分については、相続人Aに対する贈与であるといえる特別な事情がない限り、特別受益にはならないと考えられる
・弁護士に依頼し、事実調査をしてもらったうえで、調停の申立てを検討した方がよい
初めまして。 よろしくお願いいたします。
13年前に被相続人に借入し、自宅を現金で一括購入した相続人Ⓐの借用書が数枚に分かれて作成されています。
全てこの自宅購入の為の借用書ですが、1枚だけ借入日の記載の無いものが有ります。
返済は振込で1年程しかされていません。
被相続人は借入日から6年目に意識不明となりその7年後に亡くなりました。
この借入金を特別受益として認められる可能性は無いでしょうか?
贈与としても時効、借入金としも時効。
Ⓐはこの借入以降も度々金額も時期も不定期ですが、大体一度に10万~40万程の金額を振込してもらっています。
又、この振込先口座が、Ⓐの口座宛の時とⒶの配偶者宛の時が混在しています。 調停に持ち込んでみる価値は有りますか?
(mayu)
※敬称略とさせていただきます。
【回答】
1 特別受益とは
特別受益とは、被相続人から生前に受けた養子縁組のためもしくは生計の資本としての贈与あるいは遺贈をいいます。
このような贈与・遺贈は相続財産の前渡しとも考えられるため、相続人間の公平を図るため、相続財産に持ち戻しをした上で、具体的相続分の計算の際は贈与・遺贈分を控除する処理がされます。
2 被相続人からの借入れ
被相続人からの生前の借入れについては、弁済が予定されている以上、贈与ではなく、借金ですので、仮に無利息であったとしても、特別受益にはあたりません。
今回のケースでも、相続人Aの借用書が作成されている部分は借金であり、特別受益にはあたりません。
借入総額のうち、弁済が未了の部分については、被相続人の相続財産であり、相続人Aにたいする貸金債権になります。
ただし、相続人Aの最終弁済から10年経過しているようですので、Aが時効が完成していると主張されれば、貸金債権は消滅することになります。
3 その後の10~40万円の不定期の振込について
今回のケースでは、相続人AやAの配偶者の口座には、上記借入後も被相続人から振込みがなされているようです。
仮に、口座に振り込まれている金額について、被相続人がAに対して生計の資本として贈与したものである場合、特別受益ということになります。
しかし、そのような主張をするには生計の資本として贈与であることの証拠が必要です。
上記金銭がどのような趣旨で振り込まれたものであるのか、調査が必要でしょう。
なお、毎月10数万円を与えていた場合に、親が子を助ける単なる生活費の補助であり、特別受益にはならないという審判例もあることも記憶されておかれるといいでしょう。
4 弁護士に相談した方がよいでしょう
今回の相談では、相続人Aの借入のほか、相続人AやAの配偶者口座に10~40万円という金額が不定期で振り込まれており、複数回あるとすれば相当程度の金額になると考えられます。
遺産分割においては、借入れの弁済未了分の問題に加え、上記振込みがどのような性質の金銭であるのか、特別受益であるのか等、事実調査をした方がよいでしょう。
上記事実調査や判明した事実を前提とした借入れの時効完成・特別受益についての判断については、法的知識のある専門家の判断が必要です。
調査の結果、特別受益のあることなどが判明した場合、家庭裁判所へ調停を申立てるというのがよいと思われます。
(弁護士 山本こずえ)