
【題名】
亡き実父名義の実家の家賃請求について
【ご質問内容】
昨年、同居していた父が亡くなり
現在父名義の実家に住まわせてもらっており
年末に父の遺した財産分与(預金)を兄妹とする際に実家をどうするかの話になり
兄妹には以前から引越しをする旨を伝え
引越しはいつかの話になり
当時、私は町内の役員をしていた為
今年の3月迄任期があり
その後から動く予定でしたが
経済的な理由もあり
2年程時間が欲しい事を妹経由で兄に伝えてもらったところ
先月から1日/1000円の家賃請求をされています。
法的に支払わなければならないのかどうなのか
教えていただきたくご相談させていただきました。
実父が亡くなり一年経ち
実家の登記登録の変更手続きは行っていないので亡き父の名義のままです。
父が亡くなる迄の19年間
私は父と同居していました。
私の他に
兄と妹がいます。(それぞれ独立しています。)
長文で申し訳ありませんが、どうぞ宜しくお願いいたします。
【ニックネーム】
中村 昭子
【弁護士による詳細な回答】
1.ご相談の概要
今回のケースでは、被相続人が父であり、その子である相談者、兄、妹の3名が相続人となります。
相談者は、父の死亡後も遺産である父名義の自宅に住んでいるために、兄から一日あたり1000円の家賃を請求されています。
さて、どうしたらいいのでしょうか?
2.家賃の支払い義務はないという最高裁の判例があるが・・
共同相続人の一人が相続開始前から被相続人と同居していたケースでは、被相続人と同居していた相続人との間に、相続開始後も遺産分割により所有関係が最終的に確定するまでの間は同居相続人に無償で使用させるという合意があったと考えられると述べた最高裁の判例があります(最判平成8年12月17日)。
ただ、裁判の判決はあくまで具体的な案件に応じた結論ですので、それが今回の質問のケースにそのまま当てはまるのかどうかは疑問があります。
3.相談者としては無償で住むことができると主張することになる。
今回のケースでも、相談者と父とは19年も同居し、その間、相談者は父に賃料などは支払っていなかったのでしょう。
そのため、父と相談者の間には、《相談者を賃料なしで居住させる》という合意が成立したと考えることが可能です。
法律的に言うと、相談者が建物を無償で使用するという契約(使用貸借契約といいます)が成立していたと考えるのです。
このような使用貸借契約は貸主(父)が死亡しても契約は解消されません。
そのため、相談者としては、自分は使用貸借契約上の借主であり、その契約は貸主の死亡でも契約は消滅しないので、相談者は使用し続けることができるという主張をすることになります。
4.本当に使用貸借が成立するのかが問題になる。
しかし、果たして父と相談者との間で使用貸借が成立するのかという、根本的な疑問があります。
子の居住を認めた父としては、未来永久に住み続けることを認めたのではなく、《とりあえず、ここに住んでいいよ》という程度の気持ちだったでしょう。
もし、使用貸借が成立しているという前提なら、父が相談者と喧嘩して、《家を出ていけ》と言ったような場合にでも、相談者は使用貸借を主張して退去を拒めます。
しかし、父としてはそこまでの強い権利を与えたという気持ちではないでしょう。
また、次のような点も問題になります。
5.配偶者でも原則6ケ月しか認められない。
令和2年4月に改正相続法が施行されました。
その際、相続人である配偶者は、相続の発生から原則6ヶ月まではそれまで居住していた家屋を無償で使用する権利を有することになりました。
この条文は、配偶者の居住権を確保するために新設されたものと言われています。
しかし、もし使用貸借が成立するのなら、6ケ月に限定されず、その後も引き続き、配偶者の居住が認められるはずです。
この条文の前提には、使用貸借は認めがたいという前提があるように思います。
夫婦であっても、使用貸借が主張できないのなら、単に子に過ぎない相続人も当然使用貸借を主張できないと考えることになります。
6.長期に住むのなら賃料の支払いが必要になる
結局、この問題は、おそらく最高裁の判例があるという一事では問題は解決せず、具体的な事情次第により結論が変わってくる可能性があります。
具体的の事実はわからないので、とりあえずは次のような結論になりそうです。
相談者の立場としては、父との間で使用貸借が成立しているので、立ち退かないと主張するといいでしょう。
しかし、使用貸借が認められない可能性もあることを理解しておく必要があります。
配偶者でも6ケ月しか居住が認められないとすれば、それを超える期間の無償使用は認められる可能性は少ないと考えていいでしょう。
家を出にくい事情があるのでしょうが、長期に使用を続けるのであれば、それなりの使用料として賃料を支払う必要がありそうです。
5.家賃の金額について
兄からは1日1000円を請求されていますが、それはあくまで兄の言い分ですので、近隣の相場を確認されるといいでしょう。
また、現在、既に建物を使用している状態であるということを利用して、賃料を他より低くするように要求されるといいでしょう。
なお、賃料を支払う場合には、あなたの法定相続分に応じた分の賃料は支払う必要がないことにも留意されるといいでしょう。
(弁護士 山本こずえ、弁護士 大澤 龍司)