【質問の要旨】
【質問の要旨】
家族構成:父、義母、相談者
被相続人:父・・・公正証書遺言書で「義母に全財産を相続する」と記載
生前常々、自分が亡くなったら義母を頼むと言っていた。
【経緯】
①義母に、父が相談者に少しの額でも相続させる意思はなかったのか確認したが、義母は自分が相談者より資産が少ないので、
それを分かって遺言書を作成してくれたと言われた。
②ところが、義母は父の遺言書作成日の約1か月前に、前夫から多額の慰謝料(相談者の資産を大きく超える額)を貰っていた。
③父が事実認識を間違って遺書書を書いたのではないかと義母に確認したいが、応じてくれない。
・事実を知らず(知らされず)に作成された公正証書遺言書を無効にすることは可能か。
・可能な場合、どのような手続きを取ればいいのか。
【回答】
1 遺言無効の訴えを提起するという方法があります。
父親の公正証書遺言を相談者と義母との間だけで無効にすることは、義母がそれを受け入れることでいつでも可能です。
それができないなら、裁判所に訴えて遺言の無効を確認してもらう方法があります。
その場合には、原則として、遺言無効確認調停を経たうえで、遺言無効確認訴訟を提起するという流れになります。
2 父の遺言を無効とするためには立証のハードルが非常に高い
しかし、裁判で父の遺言の無効を裁判所に認めてもらうためには、遺言をした当時に父親が認識していた事実を立証する必要があります。
父親はすでに亡くなっているため、父親を証人尋問することはできません。
相談者が父親から「俺が亡くなったら、義母を頼むね」と言われていたというだけでは、父親のその当時の認識を立証することが極めて困難でしょう。
3 残された方法として遺留分侵害額請求がある
そこで残された方法としては、遺言の有効を前提として、相談者の遺留分を義母に対して請求することができます。
相談者は父親の遺産について4分の1の遺留分を有しています。
遺留分の請求の仕方や遺留分額の計算については、法律的な知識が必要ですから、専門家に相談されると良いでしょう。
両親(父、義母)と私(息子1人)の家族で、私は両親と別居しています。
父が亡くなり、父の公正証書遺言で「義母に全財産を相続する」とありました。遺言書の形式は問題ないのですが、父は、生前常々私に、「俺が亡くなったら、義母を頼むね」と言っており、遺言書の内容がそれとは異なるため、私は義母に、「父が遺言書を作成した時、父は私に少しの額でも相続させる意思はなかったのか」を電話で確認しましたが、義母は、「私が世話を続けてきて、あなたより資産も少ないので、それを判って父は遺言を作成してくれた。遺言どおり相続するね」と話してくれました。
ところが、義母は、父の遺言書作成日の約1か月前に前夫から多額の慰謝料を貰っており、その額は私の資産を優に超えるものでした(義母から聞いた情報)。義母の説明では、それを父は知らなかったということになり、父は事実を知らずに遺言書を作成したことになります。父が事実認識を間違って遺書を書いたのではないかと確認しようと、義母に話をしたいと申し入れましたが、まったく応じてくれません。
このように父が事実を知らず(知らされず)に作成された公正証書遺言書を無効にすることはできますか?その時、どのような手続きを行えば良いでしょうか。
【ニックネーム】
サチ
【回答の詳細】
1 遺言無効の訴えを提起するという方法があります。
父親の公正証書遺言を相談者と義母との間だけで無効にすることは、義母がそれを受け入れることでいつでも可能です。
それができないなら、裁判所に訴えて遺言の無効を確認してもらう方法があります。
ただし、かかる訴訟を提起するためには、原則として、あらかじめ家庭裁判所に対して、遺言無効調停を申立てする必要があります。
遺言無効調停では、調停員が関与して話し合いでの解決を目指します。
ただし、調停で折り合いがつかなければ遺言無効の裁判をすることができます。
2 父の遺言を無効とするためには立証のハードルが非常に高い
しかし、裁判では、父親の遺言を無効とするのは容易ではありません。
本件では、遺言とした当時の父親の事実認識には誤りがあり、正しい認識を持っていたなら父親はそのような遺言をしなかったはずだから、遺言は無効だ!という主張になります。
これを錯誤無効の主張と言います(なお、令和4年民法改正以後に錯誤に遭った場合は取消しの主張となります。)。
この主張が認められるためには相談者の側で、少なくとも、次の立証をしなければなりません。
①遺言当時、父親は義母の財産が相談者の財産より少ないと認識していたこと
②遺言当時、義母の財産が相談者の財産を上回っていたこと
③遺言当時、父親が②を正しく認識していたら、義母に全財産を相続するという遺言をしなかったといえること
しかし、①と③は、遺言当時の父親の認識が問題となります。
相談者の場合、遺言当時の父親の認識を証明するための手掛かりとして、父親が生前に常々「俺が死んだら、義母を頼むね」と言っていたという事実のほか、何があるでしょうか。
父親が残した日記や、遺言書作成に当たって父親が作成したメモ、弁護士等との相談記録などが残っているでしょうか。
このような客観的な証拠がなければ、相談者が父親から常々聞かされていたというだけでは、裁判所で錯誤無効を認めてもらうことは困難です。
3 残された方法として遺留分侵害額請求がある
以上のとおり、相談者の場合には裁判で錯誤無効(取消し)の主張をして、遺言の無効を認めてもらうのは困難です。
残された方法としては、遺言が有効であることを前提として、義母に対して遺留分の請求することができます。
相談者の場合、父親の全財産の4分の1については遺留分を侵害しているという理由で、義母に対して請求することができます。
ただし、遺留分の権利は、相談者の遺留分を侵害する遺贈があったことを知った時から1年以内です。
請求の仕方や計算方法は、法律の知識が必要となりますので、専門家に相談されると良いでしょう。
(弁護士 岡本英樹)
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