【質問の要旨】
・相談者は長男
・次女が認知症の父・母と同居している
・次女が父のお金を管理
・財産の土地と家を売却していた
・相談者がこの状況の中、できることは?
【ご質問内容】
初めまして。認知症の父親の財産についてご相談させてください。
私は長男で次女が認知症の父親と同じく認知症の母親と暮らしています。介護認定は次女が受けさせようとしないため受けておらず、今月12月に長谷川式を受けたのですが14点でした。
父親が認知症のためATMからお金を引き出せない状況で、次女がいつの間にかお金を管理をしており、財産として持っていた家と土地を勝手に売却しておりました。父親は次女に上手く言いくるめられたと思います。何故ならば、まだ認知の症状が無い時に、しきりに俺が生きてるうちは売らない、お前たちの代に引き継いだらお前たちで決めればいいと言っていました。また次女に「前に言ったよね、忘れたんでしょ」と強く言われると応じてしまうシーンを何度も見かけていました。本人もどんどん忘れていく事に対して記憶の不安を口にしていたので自信がなく納得してしまう状況です。このような状況の中、出来ることについてご相談させていただけますと幸いです。
何卒よろしくお願いいたします。
【ニックネーム】
らら
【回答】
1.家と土地の売却の有効性を争うことは難しい
今回、ご相談のケースでは、認知症の父が土地や家を売却しており、意思能力がないため売買契約は無効とならないかが問題となります。
もっとも、この点については、売買契約においては本人の意思確認がなされ、実印や印鑑証明書などの書類が添付されていることや、認知症であっても、法律行為の内容が複雑かどうかによって意思能力の有無が判断されるため、土地や家の売買程度であれば、意思能力があると判断される可能性があることから、有効性を争うことは難しいと考えられます。
2.今後どうしたらよいか?
1)保佐人の制度について
今回のケースでは、父が認知症で、長谷川式テスト(認知機能のテスト。30点満点中20点以下であれば認知症の疑いありとされる。)で14点であるため、意思能力が低下しているのではないかと考えられます。
このように認知症で判断能力が通常よりもかなり低下している場合、「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分」であるとして、保佐人を選任することを家庭裁判所に申し立てることが考えられます。
2)家庭裁判所が付くこともある
保佐人や後述する成年後見人は、家庭裁判所が選任をします。
申立てをした親族自身がなることもありますが、本人との利害対立が考えられる場合などは弁護士や司法書士などの専門家が選任されることもあります。
保佐人が選任されると、次女が独断で金銭管理をすることができなくなります。
(大手の銀行では、約款で保佐人や成年後見人が選任された場合は、届出をするよう規定しているため、保佐人や成年後見人が届出をして、これによりカードを使用できなくなります。)
また、保佐人が選任されると、一般的に重要な財産の処分と考えられる行為(借財や保証、不動産その他の重要な財産の処分、訴訟行為等、民法13条1項に挙げられた行為)について、保佐人の同意が必要となります。
仮に、保佐人の同意を得ずに、父が重要な財産を処分してしまった場合、保佐人や本人などがその行為を取消すことができます。(民法13条4項)
3)病状が進行した場合は成年後見人の選任
相談者の父の認知症が進行し、長谷川式テストで10点未満になった場合は、成年後見人の選任も考えられます。
成年後見は、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況」の場合に利用することができます。
具体的には、前述のとおり、長谷川式テストで一桁代の点数となってきた場合に家庭裁判所に申立てをしたらよいでしょう。
成年後見人が選任されると、成年被後見人(父)は、日用品の購入その他日常生活に関する行為」(民法9条)以外の法律行為を行った場合は全て取消すことができます。
また、成年後見人が財産管理を行うことになるため、次女が金銭管理を行うことはできません。
また、成年後見人は財産目録を作成し、裁判所に後見事務について報告を行うことになります。
(弁護士 山本こずえ)