【質問の要旨】
相談者の母は、公正証書遺言を作成しており、その内容は母が所有する賃貸マンションを相談者に相続させるというものである。
①亡くなった人の口座は凍結されると聞いているが、登記名義の変更手続をしている間も、賃料は母の口座に振り込まれてしまうのか?
②母が亡くなった場合、早急に借主への通知が必要となるのか?
③相談者は相続登記(登記名義の変更)をしなければ、賃料請求をできないのか?
【題名】
古い鉄骨マンションを相続した場合の家賃収入について
【ご質問内容】
相続について、ご相談があります。
私の父は亡くなっており、母が今危篤状態です。母は一棟の古い鉄骨マンションを所有しています。
私には妹と弟がいます。実家で弟が二世帯住宅で母と一緒に住んでおり、妹が近所に住んでおり、
私は実家から車で一時間半ほどかかる遠いところに住んでいます。
公正証書遺言により、母の所有しているマンションとその土地は私が相続することになっております。
そこで、質問なのですが、
私は相続した賃貸マンション(14部屋:2部屋空き状況)を母が亡くなったらすぐに売却したいと考えております。借主を入居させたまま売却しようと考えているので、すぐに売却できるか分かりません。その場合、母が亡くなってから、私に名義変更するまで何か月か、期間がかかってしまうと思うのですが、その何カ月間の家賃は母が亡くなっても母の口座に振り込まれるのでしょうか?
それとも、母が亡くなったと同時に私の口座に振り込むように借主の方々に早急に通知をしなければならないのでしょうか?亡くなったら口座が凍結されると聞いたことがあるのですが、私に名義変更するまでの家賃収入は誰のものになるのでしょうか?実質、母が亡くなったと同時に家賃収入は私のものになると思い込んでいるのですが、間違っているのでしょうか?
それとも、私に名義変更してからでないと、私の家賃収入にはならないのでしょうか?
どうか、ご教授のほど、よろしくお願い致します。
【ニックネーム】
中野慎吾
【回答】
第1.口座の凍結に備えて、まずは振込先変更通知が必要となる
金融機関が相続の発生について連絡を受けると、亡くなった人の口座は凍結されます。
そのため、相談者が賃料の振込先について、変更する通知をしなければ、借主が賃料の振込みをしようとしてもできないという状況も考えられます。
したがって、相続が発生した場合は、相談者としてはまずは借主宛に相続により賃貸人が変更したため、振込先口座を変更します、という内容の通知を送ることがよいでしょう。
なお、金融機関が亡くなったことを知らなければ、しばらくの間は母の口座に賃料が振り込まれ続けるという状況も考えられます。
第2.名義変更登記をしなくとも相談者に家賃収入を取得する権利がある
今回のご相談では、相談者の母は賃貸マンションを所有しており、同マンションを将来的に相談者に相続させるという内容の公正証書遺言が作成されています。
上記遺言書の効力は、死亡したときから発生しますので、今回のケースでも、母が亡くなった場合は、そのときから相談者が賃貸マンションを相続により取得し、賃貸人としての地位も承継していることになります。
つまり、名義変更登記をしていなくとも、賃料請求権(家賃収入)も相談者が取得することになりますので、相談者の認識で間違いはありません。
第3.借主に対して賃料請求するには名義変更登記が必要
賃借人に対して、賃貸人であることを主張するためには、登記移転手続が必要であるという民法上の規定があります。(民法605条の2第3項)
上記のとおり、相談者は名義変更登記をしなくとも、家賃収入を取得する権利はありますが、賃貸人であることを争われた場合は名義変更登記まで完了していなければ、賃貸人として賃料請求などはできないという意味です。
一方、賃借人側で名義変更登記が未了の相談者を新賃貸人と認めて、相談者名義の口座に賃料を振り込むということはできます。
第4.相続発生後は借主に通知をした上で移転登記手続を早めにすべき
上記のとおり、まずは振込先変更通知が必要となりますが、移転登記手続についても同時並行でなるべく早めに行うのがよいでしょう。
母が亡くなったということを金融機関へ連絡するのは、上記振込先変更の通知を行ってからでよいと思われますが、他の相続人が通帳を管理しているなど、死亡後に出金されるおそれがあるのであれば、上記通知後はなるべく速やかに金融機関に連絡されるのが良いかと思われます。
(弁護士 山本こずえ)