【質問の要旨】
・兄(平成30年)と母(令和2年)が亡くなった後、兄嫁と父は実家で同居していた。
・令和4年に父が亡くなった後、公正証書遺言に従い、実家は兄嫁名義になっている。
・その後、自筆証書遺言が見つかり、有効性について裁判中である。
・現在、実家には誰も住んでおらず管理は相談者がしている。
→家の手入れをしたいので実家に住みたいが問題はあるか。
【回答】
1 裁判の結果によって実家に住んでよいかが決まります
本件では、裁判の帰結によって、自宅不動産の所有権が兄嫁に帰属するのか、それとも相談者に帰属するのかが変わってくるケースと考えられます。
裁判の結果、自宅不動産の所有権が相談者に帰属するのであれば、相談者が自宅不動産に住み始めることに何ら法的な障害はありません。
しかし、自宅不動産の所有権が兄嫁に帰属する場合には、相談者が自宅不動産に住み始めることには、以下のような法的リスクがあります。
2 自宅不動産に住み始めることのリスク
自宅不動産の所有権が兄嫁に帰属する場合に、相談者が負うべき民事上のリスクは以下の二点です。
①自宅を追い出されるリスク
②賃料相当損害金を請求されるリスク
また、同不動産への立入りは不法侵入となり、刑事上の責任も生じえます。
3 裁判の結果が出るまでは自宅不動産に住むのを控えた方がよいでしょう
相談者に相当程度勝訴の見込みがあっても、上記のリスクを冒してまで住み始めることは控えた方が良いでしょう。
万が一訴訟に負けた場合には、自宅を負いだされるのみならず、損害賠償を負担しなければならないなど悲惨な状況となります。
このため、自宅不動産の手入れをする必要があるのであれば、裁判の決着がつくまでは、兄嫁にも連絡をした上で立ち入るようにするのが無難です。
現在、令和2年に兄嫁と父と二人で同居してた頃(母は令和2年に死亡、兄は平成30年に死亡)作成された公証役場遺言に従い(そのことを私は父の死後初めて知りました)昨年の父の死後実家は兄嫁名義に変更をいつのまにかされていますが、誰も住んでいない実家の管理は私がしています、その後父の自筆遺言が見つかり、その有効について裁判中です、古い家ですし、手入れもしないといけないと思うので、私が実家に住むのは問題あるでしょうか。
【ニックネーム】
みちこ
【回答の詳細】
1 問題の所在
父親の公正証書遺言(以下、「前の遺言」といいます。)に基づいて、父親の遺産である自宅不動産が兄嫁に遺贈され、自宅不動産の所有権登記が父親から兄嫁に変更された後、父親の直筆の遺書(以下、「後の遺言」といいます。)が発見された。
ご質問内容からすると、後の遺言には自宅不動産を兄嫁に譲るという前の遺言と抵触する記載(例えば、「自宅不動産は相談者に相続させる」という遺言)があり、相談者としては後の遺言によって前の遺言が撤回されたのではないかと主張しているが、相手方は後の遺言の無効を裁判で争っているということではないでしょうか。
さて、以上を前提にした場合に、相談者が自宅不動産に居住することにどのようなリスクがあるでしょうか。
2 裁判の帰結によって住んでよいかどうかが決まる
上記のような状況であれば、相談者が自宅不動産に住む権利があるかどうかは、裁判の結果によって決着がつくと思われます。
かりに、後の遺言の記載内容にもよりますが「自宅不動産は相談者に相続させる」という遺言が有効と認められれば、自宅不動産の所有権は相談者に帰属します。
そうすると、相談者が自宅不動産に住むことについて何ら法的な障害はありません。
他方、後の遺言が無効と判断された場合には、前の遺言が有効であったということになりますから、自宅不動産の所有権は兄嫁に帰属します。
そうすると、相談者が自宅不動産に住むことで様々な法的リスクを負うでしょう。
3 相談者が負うリスクの種類
(1)家を追い出されるリスク
後の遺言が無効であり、自宅不動産の所有権が兄嫁にあることが確定した場合、兄嫁としては自宅不動産に住んでいる相談者に建物明渡しの訴訟を提起することができます。
最悪の場合、強制執行により自宅を追い出されるでしょう。
(2)賃料相当損害金を請求されるリスク
相談者が権限無く自宅不動産に住んでいたということであれば、その間に相談者が享受した自宅の使用利益を損害賠償請求されるリスクがあります。
その場合の損害金の額は、通常、自宅不動産を第三者に賃貸した場合に発生する賃料の相当額になると考えられます。
(3)刑事上のリスク
他人の住居に立ち入る行為は住居侵入罪(刑法130条)に該当する場合があります。
4 裁判の判決が出るまでに住んでも良いかという点
相談者としては、自宅不動産に住む権利があるのだから裁判の結果を待たずに住み始めても問題ないのではないかという、疑問をお持ちかもしれません。
しかし、相談者に相当程度勝訴の見込みがある場合にも、上記のリスクを考えると、直ちに住み始めるのは控えた方がよいでしょう。
万が一、住み始めた後に敗訴した場合には家を追い出されるだけではなくその間の賃料相当損害金を支払わなければならないなど、悲惨な状況となるでしょう。
かりに、自宅不動産の手入れをする必要があるのであれば、裁判の決着がつくまでは、兄嫁にも連絡をした上で、立ち入るようにするのが無難です。
(弁護士 岡本英樹)
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