【巻紙に書かれた遺言書】
以前、一澤帆布の遺言書騒動のことを書いた。
2通の遺言書のうち、最初のは巻紙に毛筆で書かれていたという。
しゃれたことをすると感心した記憶がある。
たしかに、どんな紙であろうと、遺言書としての効力には差はない。
江戸時代のような毛筆、巻紙も有効だし、日本画家なら金粉がまかれた紙で決めるという手もあるだろう。
千代紙に書いて、人形に着せるというようなことも、その書かれた内容や形が遺言書に必要な要式を満たしている限り、有効だろう。
【絵の裏に遺言書がある】
その人間が生涯をかけて身につけた芸術や技術を駆使するのもおもしろい。
画家が、残される家族全員の肖像画を描き、その絵の裏に遺言書なんていうのもありかもしれない。
家族が最後の遺作となった絵を眺め、ひょいと裏を見れば、なんと、そこには遺言書があった、ということもありかもしれない。
【ここまでいけば遺言書にはならないかもしれない】
陶芸家なら、窯で焼く前に、作品にへらで遺言書の内容を刻み込むということを考えるかもしれない。
しかし、ここまで行けば、自筆遺言証書の「証書」にあたるのか、「印鑑」はどうなるという問題があり、遺言書とは認められない可能性がある。
また、書道家が、自分の部屋の壁に筆で遺言を記載していた(印鑑は押してある)場合も、「証書」といえるかどうかが問題となるだろう。
【人生を付け加えることもできるが・・】
遺言書は、自分の財産の死後の処分を書くものである。
しかし、それ以外を記載してだめということはない。
作家なら、遺言書という書き出しで、自分の人生を要約し、子供たちに希望する生き方を記載することも可能だ。
ただ、遺言書の内容が矛盾しておれば、遺言書が無効になることもある。
子供たちに託する思いは、遺言書とは別に文学作品という形で残すべきだろう。