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実例Q&A

遺留分侵害額請求の支払いについての期限【Q&A No.737】

2021年11月12日

【質問の要旨】

・祖母が2019年5月に他界

・同居していた父が遺言書により土地建物を相続

・その後父の兄弟2人から遺留分の起訴提起され、遺留分900万の支払が求められた

・直ちに支払いが難しいため、3年間の支払延期を求めて現在交渉中

・しかし先方は一括払いを求めているため交渉が難しい

・現在父は金融ローン約300万の返済あり、パート勤務と年金生活

・母は年金生活

 

①判決が確定し、支払期限までに支払えなかった場合は、強制執行の手続をとられ不動産等が差押らえるのか

②父の弁護士によると、財産(土地)があるため裁判所による期限の許与はできないとのことだが、その真意を確かめたい

 どのような場合に期限の許与が認められない場合があるのか

③裁判所に期限の許与を請求するにあたっての手順や、必要な根拠資料などを教えてほしい

 

 

 

 

【回答の要旨】

1. 判決が確定したのであれば、債務者は強制執行により不動産などを差し押さえられる可能性がある

2. 判決確定後の差押え可能性について、期限までに支払いがなければ、強制執行されることとなり、

その場合、上記期限から後の遅延損害金の支払いが必要になる

3. 期限の許与の判断基準について

直ちに金銭の支払いをするのは困難であるとして、期限の許与がされる可能性はあると思われる

4. 期限の許与を請求する手続き、必要資料について

(1)手続きについて

訴訟中で抗弁として主張するという考えと、反訴の提起など、訴訟提起が必要であるという考えの2つがある

(2)必要資料

金銭の準備が困難であることを示す資料が必要と思われる

【題名】

遺留分の支払い期限の許与について

 

【ご質問内容】

遺留分侵害額請求に関して、交渉による分割払いや期限の猶予が認められない場合、裁判所に対して「期限の許与」を請求する方法(民法1047条5項)についてご教示いただきたいです。

これまでの経緯は以下です。

祖母が2019(令和1年)5月に亡くなり、同居していた土地建物を父が相続(父に相続させる旨の遺言状あり)しました。

その後、父の兄弟2人より遺留分の訴訟提起され、2人に対して遺留分約900万円の支払いが求められました。

直ちに支払うことはできないため、3年間の支払い期限延長を求めて現在交渉中ですが、先方は一括支払いを求めているため交渉は難しい見立てです。

 

ご教示いただきたい内容は以下です。

①判決が確定し、支払い期限までに支払えなかった場合には、強制執行の手続きをとられ、不動産など差押えられてしまうのでしょうか?

②父の弁護士によると、財産(土地)があるため裁判所による期限の許与はできないとのことでしたが、その真意を確かめさせていただきたいです。どのような場合に期限の許与が認められない可能性があるのかも併せてお教えください。

③裁判所に期限の許与を請求するにあたっての手順や、必要な根拠資料などあればお教えください。(現在、父は金融ローン約300万円の返済ありパート勤務と年金生活、母は年金生活です)

 

以上よろしくお願い申し上げます。

(ポチ)


 ※敬称略とさせていただきます。

 

【回答】

1.遺留分侵害額請求の期限の許与の効果(民法1047条5項)

まず、今回問題となっている遺留分侵害額請求についての期限の許与についてですが、民法上の規定は以下のとおりとなっています。

《民法1047条5項》

「裁判所は、受遺者又は受贈者の請求により、第一項の規定により負担する債務の全部または一部の支払いにつき相当の期限を許与することができる」

この「第一項の規定により負担する債務」というのは、遺留分侵害額請求者に対して支払う債務のことです。

この制度は平成30年の相続法改正により新しくできた制度です。(令和元年7月1日以降に開始した相続から適用があります。)

遺留分侵害額請求された場合、その請求を受けた側の人が遺産から預貯金や現金などの金銭をもらっているような場合は、その金銭等で支払いが簡単にできます。

しかし、不動産でもらった場合などは、請求者に支払う額が多額になり、すぐに用意ができない場合も十分に想定されます。

そのため、支払い金の手配をするためにある程度の猶予期間を設けることにしようというものです。

具体的に言えば、判決で遺留分侵害額の支払いを命じるとき、すぐに支払えというのではなく、支払い期限を将来にするというものです。

2. 判決確定後の差押え可能性について

判決で口頭弁論終結後の期限が許与される場合、たとえば、遺留分侵害額が900万円であり、令和4年4月1日まで期限を許与する場合は、以下のような判決主文になります。

 「(1)被告は、原告に対し、その期限を令和4年4月1日が到来したときは、1000万円及び令和4年4月2日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。(以下、略)」

上記主文からも分かるとおり、上記期限までは弁済期が到来していないということになるため、強制執行されることはありません。

しかし、期限までに支払いがなければ、強制執行されることとなり、その場合、上記期限から後の遅延損害金の支払いが必要になります。

3. 期限の許与の判断基準について

(1)期限の許与の制度趣旨

 新たに期限の許与の制度が創設された理由をより詳しくいうと、以下のとおりです。

  • 被相続人から受けた遺贈の対象財産が換価困難な不動産や動産である場合や、
  • 被相続人から金銭の贈与を受けたが、遺留分侵害額請求を受けた時点では相当期間経過しており十分な資金がない場合

など、遺留分権利者から金銭請求を受けた受遺者又は受贈者が直ちに金銭を準備できない場合があります。

そのような場合にも遺留分権利者の権利行使により金銭請求がされ、ただちに応じなければ遅延損害金が発生するというのでは酷な場合もあります。

そこで、上記のような場合に、裁判所が金銭債務の全部又は一部につき相当の期限を許与できるとしたのです。

(2)相当の期限が許与される判断基準

このような制度趣旨からすれば、贈与や遺贈を受けた対象財産が換価困難な不動産等の財産であるかどうか、受遺者又は受贈者に十分な金銭の用意が可能であるか、《金銭の支払いを直ちにすることができないような事情があるかどうか》が期限の許与の判断基準であると考えられます。

今回の相談では、相談者の父は土地建物を相続しています。

また、相談者の父は金融ローン約300万円の返済があり、収入はパート勤務と年金という状況です。

そのため、これらの事情を考えると、直ちに金銭の支払いをするのは困難であるとして、期限の許与がされる可能性はあると思われます

ただし、期限が与えられるとしても、その期間は資金調達に必要な期間となりますので、たとえば不動産の売却手続きにかかると思われる期間等を基準にするように思われます。

(3)相談者父の弁護士の発言趣旨

相談者の父の弁護士が「土地があるため期限の許与は許されない」としたのは、土地を換価すれば一括で金銭を支払うお金を用意することができるので、裁判所が期限の許与を許されないのではないかという趣旨と思われます。

ただ、既に記載しましたとおり、不動産を売却するにも買い手を探すなど、ある程度は時間がかかりますので、すぐにお金を用意できないとなれば、期限の許与が与えられる可能性はあるでしょう。

4. 期限の許与を請求する手続き、必要資料について

(1)手続きについて

期限の許与を求める手続きについては、訴訟中で抗弁として主張するという考えと、反訴の提起など、訴訟提起が必要であるという考えの2つがありますが、この点は難しくなりますので、弁護士に相談されるといいでしょう。

ただ、参考判例を記しておきます。

・抗弁とする立場:大阪高判平成24年5月31日判時2157号19頁など

・反訴などの独立の訴えが必要とする立場:大阪高判平成14年6月21日判時1812号101頁。

(2)必要資料

上記制度趣旨からしますと、期限の許与を求める際は、金銭の準備が困難であることを示す資料が必要と思われます。

そのため、必要資料についてはケースバイケースですが、今回のような場合は、父が遺産から相続したのが不動産だけであったこと、父独自の財産はほとんど存在しないこと、収入状況が分かる資料や毎月ローンの返済が必要であることなどを裏付ける資料を証拠として提出するといいでしょう。

(弁護士 山本こずえ)

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