【質問の要旨】
・本家の名義が三分割されている
・相談者の父が本家長男
・本家を残すため、名義人2人には相続放棄の約束を取り付けている
・名義人の1人と話をした際、父から確約は取れたと聞き同席した母からは一筆ほしいと言ったら信用できんのか、と怒鳴られた
・祖母が他界した折、祖母名義の証券、預金通帳を渡したのを見ている
・本家宅から箪笥やその他諸々持ち出している
・固定資産税や一時他人名義になっていたところを戻す費用も本家から出している
・父が他界した数年後、突然固定資産税を払いだした
・母が住んでいるのに何の相談もなく売却された
・本人は「(相続放棄の)約束はしていない、なにももらっていない」の一点張り、
うちで払ってきた固定資産税も家賃だというしまつ
・証拠はなにもない
・買い取った不動産屋が何を言ってくるか不安
・買い戻す経済力は今はない
どうすればよいかご教示ください。
【回答の要旨】
・共有持分放棄の約束を取り付けたにすぎない場合、契約書もなく、口頭でしたにすぎないのであれば、
他に証拠もないと考えられるため、約束違反を理由に損害賠償請求をすることは難しい
・他の共有名義人が売却したという点について、父の持分の売却については無効であると主張し、買主に対し持分の返還請求、
また、自己の共有持分を侵害したとして、売却した名義人に対しては、不法行為に基づく損害賠償請求をすることなども考えられる
・仮に、自宅建物が祖母名義であった場合、相談者父を含む3名が相続人であったため、父のみを相続人とするために
相続放棄の約束をとりつけたということも考えられる
【題名】
相続放棄について
【ご質問内容】
内容か少し複雑な為支離滅裂になるかも知れませんがお許しください。
本家の名義が三分割されているのですが本家を残す為二人の名義人には相続放棄の約束を取り付けていました。
本家長男が私の父です。そのうちの一人に話に言った際、戻った父から確約は取れたと聞き、
同席した母からは一筆ほしいと言ったら信用できんのか、と怒鳴られたと聞きました。
その後祖母が他界した折、祖母名義の証券、預金通帳をわたしたのも見ています。そして本家宅から箪笥やらその他諸々もちだしています。
固定資産税や一時他人名義になっていたところを戻す費用も本家で出しています。が、父が他界し数年後突然固定資産税を払い出し
母がまだそこで暮らしているに何の相談もなく売却されてしまいました。
やくそくはしとらん、何ももらってないの一点張りです。
うちで払ってきた固定資産税も家賃だというしまつです。病院のベッドで土地のことは安心しろ俺の妹や信じたってくれと言った父の言葉がとても悔しい。
証拠は何もありません。買い取った不動産屋が何を言ってくるかも不安です。今買い戻す経済力もありません。
(Toto)
※敬称略とさせていただきます。
【回答】
第1 共有持分放棄の約束を取り付けたにすぎない場合
まず、相談の内容が複雑なので、どのような前提事実があるのか整理が必要です。
本家の名義が3分割されているというのは、自宅の建物登記が相談者の父とその兄弟などの3人の共有名義になっているということが考えられます。
そうすると、2人の名義人に対し、「相続放棄」の約束を取り付けたとされている部分については、「共有持分放棄」あるいは「共有持分の譲渡」等の約束であると思われます。
仮に、実際に持分放棄あるいは譲渡等の約束を取り付けたのだとすれば、約束した名義人が持分放棄をせずに家の売却処分をした段階で、約束違反があったことになります。
持分放棄の場合、契約書もなく、口頭でしたにすぎないのであれば、他に証拠もないと考えられるため、約束違反を理由に損害賠償請求をすることは難しいでしょう。
一方、相談者の父が他の名義人から譲渡を受けたのだとすれば、代金を支払った証拠(たとえば、契約した日に預金を降ろしている記録など)が残っているかもしれません。
ただ、証拠としてはそれだけでは共有持分譲渡の約束があったことの立証としては不十分であると考えられるため、やはり約束違反などを理由に損害賠償請求をすることなどは難しいと考えられます。
第2 他の共有名義人が売却したという点について
ただ、2人の名義人が持分放棄をしなかったとしても、相談者の父の名義が残っているのであれば、父の持分については相談者と相談者の母が相続をするはずです。
相談者らの共有持分については、他の共有者が売却をすることはできないはずです。
そのため、家で暮らしているにも関わらず、勝手に売却されたという経緯については、たとえば、父の持分について契約書を偽造などにより勝手に売却されたということなどが考えられます。
もし、そのような事情があるのであれば、父の持分については、他の共有者が他人物売買をしたということになります。
この場合、相談者としては、父の持分の売却については無効であると主張し、買主に対し持分の返還請求をすることが考えられます。
また、自己の共有持分を侵害したとして、売却した名義人に対しては、不法行為に基づく損害賠償請求をすることなども考えられます。
その際は、共有名義人が勝手に共有持分の資料を持ち出したという証拠や契約書を偽造した証拠が必要と思われます。
家の売却に相談者らが一切関わっていないという事情や、売却代金について相談者らが受け取っていないという事情も、他人物売買を推認させる一事情となるでしょう。
このようなケースであるとすれば、早急に弁護士に相談されることをお勧めします。
第3 仮に、自宅建物が祖母名義であった場合
今回の相談では、祖母の相続の話と、他の2人の名義人に相続放棄をさせる約束をしたという話が出てきます。
前提事実として、自宅建物が祖母名義であり、相談者父を含む3名が相続人であったため、父のみを相続人とするために相続放棄の約束をとりつけたということも考えられます。
そうだとすれば、父1人が相続人となる代わりに、他の相続人には生前に証券や預金通帳を渡したという話ともつじつまは合います。
上記のようなケースである場合、相続放棄をするという約束に効力があるのかが問題となります。
この点については、仮に、相続放棄の約束を取り付けたのが祖母の生前であれば、民法上、生前に相続放棄をすることはできないため、無効ということになります。
一方、相続発生後の場合であっても、相続放棄をするかどうかは本人の自由ですので、相手としては応じる必要がありません。
また、「相続放棄の約束をとりつけた」というのは、遺産分割の際に、相談者の父に全て相続させるという話をしたことを意味する可能性も考えられます。
ただ、上記のいずれのケースであったとしても、やはり相談者の父については相続人となるので、共有持分があるはずです。
(ただし、相談者の父が遺産分割により自宅建物の相続をしなかった場合は共有持分がないことなります)
そのため、上記第2の他人物売買の問題がでてきます。
第4 まとめ
いずれのケースであるとしても、他の名義人が自宅を売却したという部分については疑問が残ります。
事実関係を整理した上で、関係資料を持参して弁護士に相談に行くことをおすすめします。
(弁護士 山本こずえ)