【質問の要旨】
・両親は亡くなり、遺産分割も終わっている
・弟夫婦が多額の財産を隠しているが、逃げている為話が聞けない
(警察からは知能犯であると聞いている)
・どのように対応したらいいか
【回答の要旨】
・遺産分割のやり直しや新たな遺産の分割、隠した財産を請求することができる場合がある
・相手方を交渉に引き出すために、証拠を突き付ける必要がある
・財産調査を行うのが問題の解決に重要となる
両親二人は亡くなり
遺産分割もおわりましたけど
弟夫婦は多額の財産を隠してるのはわかってますけど
警察にも相談したら
知能犯と言われました
二人に聞きたいことがあるのですけど
逃げまくり話ができません
どうしたらよいのでしょうかぁ?
【ニックネーム】
ヤンババ
【回答】
1 遺産分割のやり直し等を求めることができる場合がある。
被相続人の財産を、その生前又は死亡後に、相続人の1人が被相続人に無断で取り込むことがあります。
遺産分割が終了した後に、このような事態を発見した場合に、相続人としてどのように対処すればよいでしょうか。
被相続人の財産の取り込みについては、家族間で窃盗罪や横領罪にあたる行為があっても罰しないという刑法上の規定がありますので、特段の理由がない限り、警察に訴えても、動くことはないでしょう。
一方で、民事上は、遺産分割の前提となる遺産の総額が違っていたということですから、遺産分割のやり直し又は、新たに見つかった遺産の分割を求めたり、隠された財産を不当利得又は不法行為として裁判で請求することが考えられます。
もっとも、遺産分割協議書で債権債務はないということを確認する趣旨の合意をしている場合には、遺産分割のやり直しや新たに見つかった遺産の分割が当然にできるものではないことには、ご留意ください。
2 証拠を突き付ける必要がある
しかしながら、財産を隠したと疑われる相続人がこれを素直に認めることは、あまり考えれません。
疑いをかけられている相続人としては、遺産分割は終わっているので、最早、それ以上相手をしないという態度に出ることもあるでしょう。
このような場合には、相手方を交渉に引き出すために、次の証拠を突き付ける必要があります。
①財産隠しを疑わせる証拠
②遺産分割では把握されていなかった被相続人の財産についての証拠
遺産分割では把握されていなかった遺産が存在すること(②)は、一旦終了した遺産分割が完全ではなく、遺産分割のやり直しを求める理由になります。
3 財産調査を行うのが問題解決の第一歩
しかしながら、このような証拠を具体的にどうすれば入手できるでしょうか。
①財産隠しを疑わせる証拠
被相続人の財産を取り込む対象として一番多いのは、預貯金です。
預貯金の動きを見れば、被相続人の財産が、特定の相続人に流出しているのを、発見できることがあります。
したがって、銀行の取引履歴を取り寄せてそれを分析する作業が必要です。
その際に、一つの銀行の取引履歴だけを観察していても、お金の動きを必ずしもつかむことができません。
被相続人が持っていたあらゆる銀行口座の取引履歴を取り寄せして、相互の関係を分析することで、はじめて財産隠しの実態が見えてくることがあります。
②遺産分割では把握されていなかった被相続人の財産についての証拠
被相続人と同居をしていない限り、現金については把握することは困難でしょう。
他方、預貯金は銀行に取引履歴が残っていますから、相続人であれば、これを取り寄せすることができます。
しかし、相続人の立場で被相続人の取引履歴を取り寄せるためには、少なくとも銀行名と支店名が分からなければ、難しいでしょう。
このほか、被相続人が所有していた不動産については、市区町村の役場に対して名寄帳の写しの交付を求めることができます。
4 まとめ
財産隠しをしたことが疑わしい相続人への対応は次の順序になります。
①財産調査を行い、証拠をつかむこと
②証拠を突き付けて、遺産の返還や遺産分割のやり直しを求めること
③それでも埒が明かない場合には、弁護士に相談して法的手段を検討すること
このとおり、財産調査が問題解決の第一歩になることがお判りいただけたと思います。
(弁護士 武田英樹)