【質問の要旨】
・兄が死亡
・兄の配偶者が税理士と相談し公正証書遺言の内容開示を拒否しており、
内容の確認ができない状況だが、相続人に対して財産放棄を請求している。
・現時点で兄の死亡日より1か月未満であり、まだ財産放棄は決めていない。
・税理士は相続人に確認せず名義変更をすることは可能か。
・名義変更が完了するとその後はどうなるのか。
【回答の要旨】
・公証役場に公正証書遺言の写しを請求できる。
・税理士が相談者に無断で不動産の名義変更をできるかについては、
税理士の権限や遺言の内容によって異なる。
兄が死亡、配偶者が相続人に財産放棄を請求、公正証書の内容開示を請求するが拒否、確認することができない。拒否理由として、相談している税理士が「放棄の場合コピーを送る必要はない」といっていたとのこと。兄、死亡日から1か月経たず、放棄すると決めていない。税理士は相続人に確認せず、名義変更などをすることは可能?配偶者は所属事務所、氏名、進行状態などを明かさないので確認できない。名義変更が完了するとその後はどうなりますか?お尋ねしたくよろしくお願いします。
【ニックネーム】
Kiyoko
【回答】
1 前提
兄には子や孫はなく、親や祖父母は既に死亡しているものとします。
そうすると、亡くなった兄の相続人は、兄の配偶者(以下、「配偶者」といいます。)と、兄の兄弟である相談者ということになります。
また、名義変更とは、遺産である不動産の名義変更を念頭に以下で回答します。
2 公正証書遺言の内容を知ることはできる
相続人は、全国の公証役場にて、公正証書遺言の有無や、作成した公証役場名等の情報を検索することができます(当事務所の相続Q&A「【コラム】公正証書遺言の検索及び確認について」を参照)。
上記調査の結果、公正証書遺言が保存されている公証役場がわかれば、その公証役場に対して公正証書遺言の写しを請求し(郵送対応もしてくれます)、内容を確認することができます。
本件では、配偶者は相談者に対し公正証書遺言の内容を見せたがらず、相続放棄を要求していることから、相談者に見せると配偶者にとって都合が悪い事情があるのではないかと推察されます。
そのため、まずは、公正証書遺言の写しを入手して、内容を確認する必要があります。
3 税理士が名義変更をできるかについて
配偶者が相談している税理士が、公正証書遺言により遺言執行者に選任されている場合は、その税理士は、公正証書遺言の内容を実現するために、遺言執行業務の一環として、不動産の名義変更をする権限があります。
もし、そのような事情がない場合は、その税理士には、不動産の名義変更をする権限がありません。
4 相談者に無断で配偶者名義に変更をできるかについて
税理士に名義変更権限がある場合について、さらに以下の通りに場合分けをして考えてみます。
⑴ 名義変更の対象不動産を“配偶者に”相続させるという遺言内容である場合
税理士が遺言執行者、あるいは遺言執行者の立場で、対象不動産を配偶者名義に変更する手続きをすることができます。
⑵ 名義変更の対象不動産を“相談者に”相続させるという遺言内容である場合
まだ相談者は相続放棄の手続きをとっていませんので、税理士が、相談者に相続されることが予定されている対象不動産を、
配偶者名義に変更する手続きをすることはできません。
⑶ 名義変更の対象不動産を誰に相続させるかについて遺言書に記載がない場合
この場合、対象不動産は、相続人間で共有の状態になっており、遺産分割協議によって、誰が取得するか、
又は共有のままにするか等を決めることになります。
そのため、遺産分割協議を経ずに、税理士が対象不動産を配偶者名義に変更する手続きをすることはできません。
5 相談者がすべきこと
①まずは、2で述べた通り、公正証書遺言の写しを取得して、内容を確認すべきです。
②次に、プラスの財産とマイナスの財産(借金等)として何があるか、財産調査すべきです。
マイナスの財産の方が多ければ、相続放棄をすべきですが、相続放棄は、原則として、
自己のために相続の開始があったことを知ったときから3カ月以内にしなければならないことには注意が必要です。
③相続放棄をする場合は、家庭裁判所で手続きが必要です。
相続放棄しない場合、公正証書遺言の内容の通りに遺産が分割されるか、遺産分割協議が必要な場合には、
配偶者と協議することになります。
(弁護士 武田和也)