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★★【相続判例散策】親族相盗例が適用されないケース(最高裁平成24年10月9日決定)

2016年10月6日

親族である後見人が被後見人の財産を横領した場合には、親族であっても刑罰に問われます! (親族相盗例が適用されません!)
(最高裁平成24年10月9日決定)

【ケース】
家庭裁判所から選任された成年後見人である成年被後見人の養父が、成年被後見人の財産を横領した事案。

【裁判所の判断】
裁判所はこのケースについて、次のような判断をしました。
「家庭裁判所から選任された成年後見人の後見の事務は公的性格を有するものであって、成年被後見人のためにその財産を誠実に管理すべき法律上の義務を負っているのであるから、成年後見人が業務上占有する成年被後見人所有の財物を横領した場合、成年後見人と成年被後見人との間に刑法244条1項所定の親族関係があっても、同条項を準用して刑法上の処罰を免除することができないことはもとより、その量刑に当たりこの関係を酌むべき事情として考慮するのも相当ではないというべきである。」

【弁護士のコメント】
 刑法には、「親族相盗例」と呼ばれる規定があります(刑法244条)。
 この規定は、窃盗等だけではなく詐欺や横領などにも準用されており、これらの罪を親族間で起こした場合には、特例として刑を免除し、または告訴がなければ公訴を提起することができないとするものです。
 後見人が被後見人の親族であるという場合に、その後見人が被後見人の財産を横領した場合にも、この規定が適用されるように思えます。
 しかし、裁判所は、家庭裁判所の選任・監督のもとに被後見人の財産を占有・管理する後見人が、被後見人の財産を横領した場合については、その後見人が被後見人と親族関係にあったとしても、親族相盗例は適用されないと判断しました
 これはつまり、家庭裁判所に選任されて成年後見人になった以上、親族であっても、公的立場から職務を遂行する義務(判例では「成年被後見人のためにその財産を誠実に管理すべき法律上の義務」と説明されています)を負っているということです。
 なお、この判決より前に、未成年後見人に選任されていた未成年被後見人の祖母が、後見の事務として業務上預かり保管中の被後見人の口座から貯金を引き出して横領した事案について、以下のような判決があります。

(最高裁平成20年2月18日決定)
【ケース】
未成年後見人に選任されていた未成年被後見人の祖母が、後見の事務として業務上預かり保管中の被後見人の口座から貯金を引き出して横領した事案。

【裁判所の判断】
「刑法255条が準用する同法244条1項は、親族間の一定の財産犯罪については、国家が刑罰権の行使を差し控え、親族間の自律にゆだねる方が望ましいという政策的な考慮に基づき、その犯人の処罰につき特例を設けたにすぎず、その犯罪の成立を否定したものではない。
 一方、家庭裁判所から選任された未成年後見人は、未成年被後見人の財産を管理し、その財産に関する法律行為について未成年被後見人を代表するが(民法859条1項)、その権限の行使に当たっては、未成年被後見人と親族関係にあるか否かを問わず、善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務を負い(同法869条、644条)、家庭裁判所の監督を受ける(同法863条)。また、家庭裁判所は、未成年後見人に不正な行為等後見の任務に適しない事由があるときは、職権でもこれを解任することができる(同法846条)。このように、民法上、未成年後見人は、未成年被後見人と親族関係にあるか否かの区別なく、等しく未成年被後見人のためにその財産を誠実に管理すべき法律上の義務を負っていることは明らかである。
そうすると、未成年後見人の後見の事務は公的性格を有するものであって、家庭裁判所から選任された未成年後見人が、業務上占有する未成年被後見人所有の財物を横領した場合に、上記のような趣旨で定められた刑法244条1項を準用して刑法上の処罰を免れるものと解する余地はないというべきである。」

【弁護士のコメント】
 この判決は、成年後見ではなく未成年後見のケースではありますが、親族相盗例制定の背景を説明した上で、後見の事務が公的性格であることを示し、後見人が被後見人の財産を横領した場合には、親族相盗例は適用されないと判断しているものです。
 あわせてご参照ください。

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