【質問の要旨】
・父(死亡)、母、兄(死亡)、兄嫁、相談者
・兄夫婦に子供はいない
・亡き父が名義の借地権の土地を兄夫婦が破格で買い取った
・兄が亡くなり、兄嫁名義になった
・母が地代を払っていたから、兄夫婦は破格で買取ができた
・兄が亡くなり、母に土地が1/3いくはずだが、贈与したのか兄嫁名義になっている
・借地権の相続で考えると、兄嫁には権利がない
・母や相談者に何らかの返還請求などできる可能性はあるか
【回答の要旨】
1.母が借地料を支払った点は、母の相続の際にその支払った賃料相当額が特別受益かどうかで問題になるに過ぎない。
2.兄が格安で底地を購入したのは、兄が借地権を有していたからである。
3.したがって、借地権がどのような経過で兄に移転したのかが問題になる。
もし、父の相続で兄に移転したのなら、その父の遺産分割協議が有効かどうかを争う必要がある。
4.兄の遺産分割で、母がどのように遺産分割しようと、相談者は相続人でないので異議を言えない立場である。
【題名】
亡き父名義の借地権について
【ご質問内容】
父(死亡)、母、兄(死亡)、兄嫁、私。
亡き父名義の借地権の土地を地主から、兄と兄嫁が破格で買い取りました。そして、兄が亡くなり、全て兄嫁名義になりました。
破格で買取ができたのは、母が地代を払っていたからです。兄夫婦は子がいないため、兄の土地が母に1/3いくはずですが、贈与させたのか兄嫁名義です。
借地権の相続で考えると、兄嫁には権利がありません。でも、破格で購入しています。母や私に何らかの返還請求などできる可能性はありませんか?
(らみ)
※敬称略とさせていただきます。
【回答】
【問題となる権利は借地権】
少し理解しにくい案件ですので、権利関係の整理をしていきます。
まず、法的な整理です。
父が借地をしており、兄がその底地を買い取ったということを前提とします。
《父が借地権を有している時の権利関係》
この時の権利関係としては次の3つです。
・父は借地上の建物を所有している。
・父は借地権を有する。
・地主は借地の底地を所有する。
《兄が買い取ったときの権利関係》
兄が自宅を買い受けたときの権利関係は次のとおりになります。
・父から兄が借地権上の建物を譲り受けた。・・・①
・父から兄は借地権も譲り受けた。・・・・・・・②
・地主から兄が借地の底地を譲り受けた。・・・・③
《権利移転の根拠)
上記①と②の権利が移動したのは、父からの生前贈与という可能性もありますが、通常は父からの相続だと考えられます。
③の権利移動は兄と地主との間の通常の売買に基づくものです。
【自宅が各段に安くなった理由は、父から借地権をもらったから】
借地権は通常、底地の約60%の値打ちを持っています。
例えば3000万円の土地に借地権が設定されているとした場合、
この土地が道路買収のために市町村などに買い上げられる場合、借地権者が60%の1800万円を、底地の所有者は40%の1200万円をもらうことができます。
そのため、地主は、底地をその価額の4割程度の格段の安値で兄に売却したのでしょう。
ただ、この③の売買は、兄と地主の通常の売買であり、なんら相続には関係しません。
【相続で問題になるのは①と②、とりわけ借地権の相続】
問題となるのは、①の建物及び②の借地権の相続です。
相続で兄にこれらの権利が移転したのなら、《父からの遺産分割の際》にどのような協議が成立したのかという問題になります。
父の遺産について、借地上の建物も、又、借地権も考慮されていて、分割を決定していたのなら、兄が格段に安く買い取ったのも、特に問題となりません。
ただ、父の遺産分割に際して、ことははいたが、借地権の価額が全く考慮されていないとすれば、その点が問題となります。
相談者としては、借地権の価額という重大な点が考慮されずになされた遺産分割協議は無効だということを主張することになるでしょう。
【母が借地料を支払った点について】
母が借地権料を支払っているということですが、各段に安く買えたのは借地権の兄への譲渡があったからであり、母が賃料を支払ったからではありません。
そのため、借地権料の支払いがあったことについては、《母の遺産の関係》で、その賃料の支払いが兄(本件で兄が先に死んでいますので、その代襲相続人)への特別受益になるかどうかという点が問題になるだけです。
【母に3分の1の権利はどこに行ったのかは、兄嫁と母の関係で解決することである】
兄が死亡したとき、兄嫁と母が相続人になります。
兄弟である相談者は相続人にはなりません。
そのため、遺産分割協議は兄嫁と母が相続人として遺産分割協議をすればよく、相談者はそれに関与することはできないというほかありません。
【可能なら弁護士に相談を】
一見、簡単なようですが、実は奥深い問題のようです。
特に父の遺産のところまで遡って、その無効を主張する場面があるかもしれないケースです。
そのため、相続に詳しい弁護士に法律相談されることをお勧めします。
(弁護士 大澤龍司)