【質問の要旨】
父の遺産分割調停中。
父がお金を出した兄弟名義の預貯金は特別受益にあたるか?
預貯金は既に解約済み。
兄弟は父より前に亡くなっている母から受け取ったものであり、父の遺産ではないと主張。
父の遺産と認めてもらう方法はあるか?
【ご質問内容】
現在遺産分割調停2年目の者です。
名義預金による生前贈与を受けたにも関わらず特別受益と認めない兄弟がおります。
生前父が書き記した相続人名義の通帳番号のメモ書きが出てきたのでそれを元に兄弟に開示を求めました所固有財産だと主張、なかなか開示に応じず一年以上かかりやっと開示に漕ぎ着けましたが既に解約済…
全額を受領した時点で生前贈与だと主張した所今度は父から受け取ったものではないので特別受益には該当しないと否認。
父が亡くなる数年前に母が亡くなっておりその母から受け取ったものなので現在の遺産分割協議には該当しない、
よって父からの特別受益には当たらないというものでした。
しかし母は専業主婦であり原資は父の収入のみですので父の遺産分割協議で扱うものだと主張したところ調停員の方から『民事で争ってはいかがですか?』と言われてしまいました。
理由は兄弟が認めない限り調停で扱うことはできないとの事でした。
本当にこのような主張が通るのでしょうか?
調停員の方からは後2回で終了だともいわれました。
ちなみに父は3年前、母は10年前に亡くなっております。
母が亡くなった際、父から遺産放棄をしてほしいと言われましたので遺産分割はしませんでした。
特別受益、もしくはそれ以外の主張はできますか?
今後認めてもらうにはどのような方法がありますか?
本当に困っております。
どうぞ宜しくお願い致します。
※敬称略とさせていただきます。
【生前父が書き記した《兄弟名義の通帳番号のメモ》の意味】
通常、このようなメモがある場合、父が兄弟の名義を借用して預金(いわゆる借名預金)をしたのではないかという推測が成り立ちます。
もし、そうであればその口座は父の遺産になり、遺産分割の対象になります。
しかし、兄弟が借名口座であることを認めない場合、あなたの方が借名口座であることを証明する必要があります。
メモがあったというだけでは証明には不十分です。
【借名口座の証明のために必要な調査】
ただ、兄弟は、現時点では、母からもらった金でその口座を作ったのだと主張しています。
そのため、あなたとしては、次の事実を調査する必要があります。
① その口座の通帳及び取引印は誰が管理していたのか?
② その口座はいつ頃、解約されたのか?
③ その口座の原資はいつ、誰が出したのか(父の履歴から、その当時の原資に該当する出金はないのか)?
もし、上記①の通帳や取引印を父が管理していたというのなら、それは父の遺産であり、兄弟の口座を借名したにすぎないものだという可能性が高くなります。
②の解約時期も参考になります。父が死亡した後に解約されているのなら、父が管理していたが、父が死亡した後に兄弟が何らかの方法でその通帳を入手し、解約したのではないかという《推測》が成り立ちます。
兄弟は母からもらったと主張しているのなら、③の原資に関する調査が役に立ちます。
父の銀行預金口座の履歴を取り寄せし、原資と思われる出金を探すといいでしょう。
兄弟名義の口座が作られた時期に、ほぼ同額の出金が父の口座からあったというのであれば、父の借名口座の可能性が極めて強くなります。
逆に、原資に該当する出金がないというのであれば、借名口座の証明にとってはマイナスになります。
なお、父の口座から出金があったが、それが一旦、兄弟が管理する口座に送金されているというのなら、借名口座というよりは、父の兄弟に対する生前贈与となる可能性が高いです。
【調停委員の対応はやむをえない】
遺産分割調停の場合、遺産の範囲が決まらないと、調停のまとめようがありません。
もちろん、調停委員としては、《双方の言い分があるかもしれないが、遺産の範囲については適当なところで折り合いをつけて、分割案を考えませんか?》という対応をすることもあります。
しかし、今回の兄弟のように、父の遺産ではないという強硬な姿勢を示しており、妥協に応じないというのであれば、調停委員としては《その兄弟名義の預金が遺産になるかどうかを裁判ではっきりさせるしかないですね》としか言えないでしょう。
調停はあくまで、双方が互いに譲りあって解決する制度であるため、その妥協点がみつからないと不調にせざるをえません。
2年間も調停を続けているというのが調停としては異例の長さであり、後2回で解決しなければ、調停打ち切りという判断はやむをえないでしょう。
【裁判をする前に、弁護士に相談することも考える】
借名口座として遺産にはいるのかどうかについての判断方法は前記のとおりです。
ただ、どのような事実及びそれを裏付ける証拠があるのか、また、その事実で借名口座と証明できるかはかなり判断が難しいです。
もし、可能であれば、相続に詳しい弁護士に相談され、その結果、証明が難しいとなれば、不満であっても現在の調停で解決するしかないでしょう。
また、証明できる可能性があれば、裁判への道をお勧めします。