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実例Q&A

特殊清掃の費用を出したら相続放棄できないか?【Q&A779】

2022年9月14日

【質問の要旨】

・年金暮らしの身内がゴミ屋敷に住んでいる

・孤独死のリスクがある

・身内と相談者は不仲

 

①遺品整理の一環として、特殊清掃費用を相続財産から支出したら、相続放棄ができなくなるか。

②特殊清掃をしない場合、財産管理義務違反になるのか

③遺体引き取りと特殊清掃は一般的にセットなのか

 

 

 

【回答の要旨】

・遺品整理をすると相続放棄できなくなる可能性がある

・孤独死の場合は特殊清掃をせざるを得ない場合もある

・相続放棄をしたとしても、財産管理義務はなくならない

・特殊清掃業者に依頼するかどうかと遺体の引き取りをするかどうかは別々の問題と考えてよい

 

ゴミ屋敷の戸建てに住んでいる不仲な身内がいます。(わずかな年金)

2000万くらいの家屋ですが孤独死するリスクがあるので特殊清掃について調べましたが①費用を被相続人財産からでなくとも遺品整理扱いで相続放棄が難しくなるのでしょうか②特殊清掃をしない場合管理義務違反になるのでしょうか(遠方に住んでいるので占有はしていません)③さすがに遺体は引き取りをするつもりですが遺体引き取りと特殊清掃は一般的にセットなのでしょうか。

お忙しいところ大変恐れ入りますがご教示くださいますとありがたく存じます。

【ニックネーム】

みなみ

 

【回答】

第1 遺品整理をすると相続放棄できなくなる可能性がある

1 相続放棄とは

相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に家庭裁判所に申述して行わなければなりません。(民法915条、938条)

2 相続放棄できないケース

相続人が相続財産の一部を処分した場合などは、法律上単純承認したものとみなされる規定があります。(民法921条)

単純承認というのは、被相続人の一切の権利義務を相続するということです。

そのため、遺品整理の費用や特殊清掃の費用を亡くなった人の財産から出すと、「相続財産の一部を処分」したものとして、相続放棄できなくなる可能性があります。

もっとも、例えば、亡くなった人の遺体が悪臭を放っており、近隣住民から苦情がきているようなケースで特殊清掃の費用を出すことは民法921条1号の「保存行為」として許されると考えられます。

遺品整理についても、財産的価値のある遺品を換価処分して、懐に入れてしまうというような行為でない限り、通常はそれほど問題とならないでしょう。

今回のケースでも、特殊清掃が必要な状況になっているのであれば、相続財産から支出したとしても、問題となる可能性はかなり低いと考えられます。

参考までにいえば、社会通念上相当な範囲内であれば、亡くなった人の葬儀費用を相続財産から支出したという場合に、単純承認にあたらないと判断した裁判例があります。(東京控判昭和11年9月21日、大阪高決平成14年7月3日)

 

第2 孤独死の場合は特殊清掃をせざるを得ない場合もある

1 相続放棄をしたとしても、財産管理義務はなくならない

法定相続人には、亡くなった人の財産について、財産管理義務があります。

今回のケースのように、遠方に住んでいる身内であっても、亡くなった場合は法定相続人として財産管理義務を負うことになります。

さらに、相続放棄をしたとしても、亡くなった人の財産管理をする義務がなくなるわけではありません。

民法940条1項では、相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならないと規定されているためです。

今回のケースのように、孤独死が問題となる場合、亡くなった人が誰にも発見されずに、遺体が腐敗して悪臭を放ち、ウジが湧いたりすることも考えられます。

そのような場合に、何か近隣住民に損害が生じることがあれば、きちんと財産管理をしていなかったとして損害賠償請求される可能性があります。

遠方に住んでおり、物件を占有していなかったとしても、法定相続人であった以上、責任を負うことになります。

一方、相続放棄によって相続人となる者がいれば、その者が財産管理を始めた時点で、放棄をした人は財産管理義務から解放されることになるため、特殊清掃を行う必要などはなくなります。

2 相続財産管理人の選任

もっとも、全ての相続人が相続放棄をして、誰も相続人がいないということも考えられます。

そのような場合は、相続財産管理人を選任することで、財産管理義務から解放されることになります。

しかし、相続財産管理人の選任には、20~100万円程度の予納金が必要になります。

選任後の相続財産管理人の報酬については、相続財産から支払われることになりますが、予納金については、相続放棄をした相続人の負担とならざるを得ないでしょう。

遺体の状況によっては、相続財産管理人の選任手続中に迅速に特殊清掃を業者に依頼する必要もあるでしょう。

 

第3 遺体引取りについて

孤独死のケースでは、状況にもよりますが、衛生面の観点から家族が引き取りをする前に公的施設で火葬されていることが多いようです。

もし、引き取りをするという場合は、亡くなった人の発見者が警察へ連絡して、警察の調査が入っていると思われますので、警察から遺体を保管している葬儀社などについて知らされることになると考えられます。

そのため、特殊清掃業者に依頼するかどうかと遺体の引き取りをするかどうかは別々の問題と考えてよいでしょう。

 

第4 まとめ

孤独死のケースでは、遺体を引き取る前に火葬されている場合も多いこと、特殊清掃の費用は相続放棄を前提とするのであれば、相談者自身が支出した方がよいことから、特殊清掃をした方がよい状況であるか、まずは現場を確認して検討した方がよいでしょう。

相続放棄については、財産調査の結果、放棄をする必要がなかったというケースもありますので、特殊清掃が必要な状況である場合は、まずは弁護士に相談する方がよいでしょう。

なお、孤独死については、自治体ごとの取り組みがされており、民間事業者と連携した見守り活動や安否確認なども行っている自治体もあるようです。

(弁護士 山本こずえ)

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